寝たきりの人にROM訓練は必要? ―「歩けないから意味がない」ではない理由

寝たきりの人にROM訓練は必要?  ―「歩けないから意味がない」ではない理由

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寝たきりの人にROM訓練は必要?

―「歩けないから意味がない」ではない理由

寝たきりで、自分ではほとんど身体を動かすことができない。

言葉で自分の意思を伝えることも難しい。

そんな患者さんに対して、理学療法士や看護師が手足の関節をゆっくり動かしていることがあります。

いわゆるROM訓練(関節可動域運動)です。

その姿を見て、

「自分で動けるようになるわけでもないのに、何の意味があるの?」

「歩けるようになるわけでもないでしょう?」

と思う人がいるかもしれません。

なかには、

「そんなリハビリをしても無駄ではないか」

「医療費の無駄遣いではないか」

という意見さえあります。

でも私は、そうは思いません。

もちろん、すべての患者さんに、毎日すべての関節を端から端まで動かせばよい、という話ではありません。

しかし、たとえ自分で身体を動かすことができなくても、関節が動くことには意味があります。

なぜなら、ROMは「歩くため」だけに必要なのではないからです。

 

寝たきりでも「生活」は続いている

「寝たきり」という言葉から、

「ベッドに寝ているだけ」

というイメージを持つかもしれません。

でも、実際には違います。

自分では身体を動かせなくても、

着替える。
身体を拭く。
オムツを交換する。
陰部を清潔にする。
体位を変える。
車椅子に移る。
楽な姿勢で眠る。

こうした生活は毎日続いています。

そして、こうした何気ないケアの一つ一つに、関節の動きが必要になります。

ここを忘れてはいけないと思います。

 

股関節が開かなくなったら、オムツ交換はどうなる?

たとえば、長期間ベッドで過ごしているうちに股関節が硬くなり、脚を外側へ開きにくくなったとします。

いわゆる内転拘縮が強くなった状態です。

すると困るのが、

オムツ交換や陰部の清潔保持です。

脚を十分に開けないため、介助する人は狭いところへ手を入れなければなりません。

無理に脚を開こうとすれば、本人には痛みが生じるかもしれません。

介助する側にも負担がかかります。

つまり、股関節の可動域を保つことは、

「歩けるようになるため」

だけではありません。

毎日の排泄ケアを、できるだけ苦痛なく受けるためにも必要なのです。

肩が動かなければ、着替えることも大変になる

肩関節も同じです。

肩がほとんど動かなくなった人のパジャマを着替えさせる場面を想像してみてください。

袖を通すために腕を動かそうとしても、肩が動かない。

無理に動かせば痛い。

介助者は、

「もう少し腕が上がってくれれば……」

と思うでしょう。

腋の下を拭いたり、皮膚の状態を確認したりすることも難しくなります。

肘が強く曲がったまま固まれば、袖を通すことも大変です。

手指が強く握り込んでしまえば、手のひらを洗ったり、爪を切ったりすることさえ難しくなる場合があります。

こう考えると、

「関節が動く」ということ自体が、その人の日常生活を支えている

ことが分かります。

ROM訓練の目的は「正常角度にすること」だけではない

ROM訓練というと、

「肩を180度まで上げる」

「膝を130度まで曲げる」

といった「角度」に目が向きやすいものです。

もちろん関節可動域を測定するうえでは角度は重要です。

しかし、寝たきりの患者さんを考えるときには、

「正常可動域まで動くか」よりも、「その人の生活に必要な範囲が保たれているか」

という視点が大切になります。

たとえば、

「このくらい股関節が開けば、痛みなくオムツ交換ができる」

「このくらい肩が動けば、無理なく袖を通せる」

「このくらい膝が曲がれば、車椅子に座れる」

という考え方です。

私は、こちらの方がずっと生活に近いROMの見方だと思っています。

痛みを少なくすることも大切な目的

拘縮が強くなると、関節を動かしたときに痛みを伴うことがあります。

そうなると、

着替えるたびに痛い。

オムツを交換するたびに痛い。

体位を変えるたびに痛い。

清拭をするたびに痛い。

毎日繰り返されるケアそのものが、本人にとって苦痛になってしまうことがあります。

ROM訓練や適切なポジショニングによって、すべての痛みを防げるわけではありません。

それでも、必要な可動域をできるだけ保ち、無理な姿勢や強い伸張を避けることは、苦痛の少ないケアにつながる可能性があります。

「機能を改善する」だけがリハビリではありません。

今ある生活を、少しでも苦痛なく送れるようにする。

それも大切なリハビリの役割です。

「介助しやすくするため」だけではない

ここは少し注意したいところです。

拘縮予防の目的として、

「介助量を減らす」

「介護しやすくする」

という言葉が使われることがあります。

もちろん、それも重要です。

介助者の負担が軽くなれば、家族やスタッフにとって大きな意味があります。

ただ私は、

「介助者が楽になるために、患者さんの身体を動かす」

というだけでは少し違うと思っています。

股関節が開けば、介助者がオムツを交換しやすくなる。

でも同時に、

本人も無理やり脚を開かれて痛い思いをしなくて済みます。

肩が動けば、介助者が服を着せやすくなる。

同時に、

本人も腕を無理に引っ張られなくて済みます。

本人にとって苦痛の少ないケアにつながり、その結果として介助する人の負担も軽くなる。

この順番で考えたいと思います。

ROM訓練だけで拘縮を防げるわけではない

もう一つ、大切なことがあります。

「拘縮予防=ROM訓練」

と単純に考えないことです。

関節が硬くなる原因は一つではありません。

長期間身体を動かさないことだけでなく、筋や腱、関節包などの軟部組織の変化、痛み、麻痺や筋緊張の異常、浮腫、姿勢、疾患そのものなど、さまざまな要因が関係します。

そのため、

ROM訓練さえ毎日していれば大丈夫、

とは言えません。

体位変換。

ポジショニング。

可能な範囲での離床。

自分で動かせる部分は自分で動かす。

必要に応じて装具などを利用する。

そして、日常のケアそのものの中で身体を動かす。

こうした方法を組み合わせながら考える必要があります。

では、どの関節から優先して動かせばいい?

ここで疑問が出てきます。

寝たきりの患者さんの全身には、たくさんの関節があります。

肩、肘、手首、指、股関節、膝、足首……。

全部を同じ時間、同じ回数だけ動かす必要があるのでしょうか。

私は、そうは思いません。

優先順位を考えるときには、

「この関節が硬くなったら、この人の生活で何に困るだろう?」

と考えると分かりやすくなります。

股関節――排泄・清潔・ポジショニング

寝たきりの方では、股関節はかなり重要だと思います。

特に外転、つまり脚を開く可動域です。

ここが失われると、

オムツ交換、陰部清潔、更衣などが難しくなります。

また、股関節や膝関節が強く曲がった状態で固まれば、ベッド上での姿勢調整や車椅子への移乗・座位にも影響します。

したがって、排泄や日常のケアに直接関係する股関節の可動域は優先度が高くなりやすいでしょう。

 

肩・肘――更衣と清潔保持

上肢では、肩や肘も重要です。

肩が動かなければ、服の袖を通したり、腋の下を清潔にしたりすることが難しくなります。

肘が強く曲がったままになると、着替えや清拭が難しくなることがあります。

ただし、

「肩だから何度まで」

という数字だけで考える必要はありません。

その人が普段どのような服を着て、どのような介助を受けているのか。

そこから必要な動きを考えます。

 

手指――小さい関節だから後回し、とは限らない

手指も見落とせません。

麻痺などによって手指が強く握り込んだ状態が続くと、手掌を清潔に保ちにくくなります。

爪が皮膚に当たったり、湿気がこもったりすることもあります。

そのため、

「小さな関節だから重要ではない」

とは限りません。

清潔保持という観点では、とても重要になる人もいます。

 

足関節は優先順位が低い?

寝たきりの方では、足関節が底屈した状態、つまりつま先が下を向いた状態で硬くなることがあります。

では、足首も毎回最優先で動かすべきでしょうか。

ここも、その人によって違います。

今後、

立つ。

移乗する。

歩く。

装具や靴を履く。

といった可能性がある人では、足関節の可動域はとても重要です。

一方で、今後立位や歩行を行う可能性がほとんどなく、生活の大部分をベッド上で過ごす人であれば、足関節背屈の正常可動域を確保することが、股関節外転や肩関節などより常に優先されるとは限りません。

だからといって、

「歩かない人の足首は放っておいてよい」

ということでもありません。

変形によって圧が集中する。

足をフットサポートに置きにくい。

靴や装具が使えない。

ポジショニングが難しい。

こうした問題があれば、足関節の優先順位は高くなります。

 

「重要な関節ランキング」は作れない

結局のところ、

1位は股関節。

2位は肩関節。

3位は膝関節。

というようなランキングは作れません。

同じ寝たきりの患者さんでも違います。

オムツ交換に苦労している人なら、股関節外転が重要かもしれません。

手指を強く握り込んで皮膚トラブルが起きている人なら、手指への対応が優先されるでしょう。

車椅子へ移乗する人なら、股・膝・足関節に必要な可動域も変わります。

将来的に立位を目指している人なら、足関節の重要性も高くなります。

だからこそ、

「どの関節を何回動かすか」から考えるのではなく、「この人は何に困っているのか」から考える。

これが大切なのだと思います。

意思表示が難しい人ほど、こちらがよく見る

もう一つ忘れてはいけないのが、意思表示が難しい患者さんです。

「痛いですか?」

と聞いても答えられない。

だからといって、

痛くないとは限りません。

関節を動かしたときに、

顔をしかめる。

身体を引く。

筋肉に力が入る。

呼吸が変わる。

声が出る。

いつもと表情が違う。

こうした反応が、本人からの大切な情報になることがあります。

「ROM訓練だから、この角度まで動かさなければ」

と数字だけを追いかけるのではなく、本人の身体から返ってくる反応を見ながら行うことが大切です。

無理に可動域を広げることがROM訓練ではありません。

ROMは「動かすこと」ではなく「生活を守ること」

「この人はもう歩かないのだから、足を動かしても意味がない」

「自分で動けないのだから、ROM訓練をしても仕方がない」

私は、そうは思いません。

歩けなくても、

着替えます。

身体を洗います。

排泄します。

姿勢を変えます。

眠ります。

人の手を借りながら生活します。

自分で身体を動かすことができなくても、その人の生活がなくなるわけではありません。

痛みなく着替えられること。

清潔を保てること。

楽な姿勢をとれること。

オムツ交換のたびに、硬くなった脚を無理やり広げられずに済むこと。

そう考えると、ROM訓練を見る目も少し変わってくるのではないでしょうか。

目標は、

「すべての関節を正常可動域にすること」

ではありません。

その人にとって必要な動きを、できるだけ苦痛なく保つこと。

そして、

その人の毎日の生活を守ること。

寝たきりで、自分の意思をうまく伝えられない人にも、ROM訓練を行う意味はあります。

むしろ、自分から「ここが痛い」「この姿勢がつらい」と訴えることが難しい人だからこそ、

私たちがその人の身体と生活をよく見て、

「この人にとって、今守っておきたい動きは何だろう?」

と考える必要があるのではないでしょうか。

 

 

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