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脳障害患者の筋緊張の見方と介入方法
脳障害のある患者さんのリハビリでは、「筋緊張の評価」がとても重要なポイントになりますが、これがなかなか難しい。
私が臨床実習の指導をしていた時も、筋緊張の評価に苦戦する学生さんをよく見かけました。
学生さんのレポートを見ると、多くがアッシュワーススケールで評価して、それで終わりになっているケースがほとんどでした。
そのとき私は「その評価結果は、実際の動作の改善につながりますか?」と問いかけるのですが、多くの学生さんは答えられませんでした。
動作時の筋緊張を評価できていないのです。
筋緊張の評価は安静時だけ見ればいいというわけではありません。
動作しているときの筋緊張も同様に評価することが大切です。
どちらか一方だけでは見えてこない情報があり、両方を観察することで適切な介入につなげることができます。
【安静時の筋緊張の評価】
• 患者さんがリラックスしている状態で、筋肉の張り具合、抵抗感、過剰な緊張(例えば痙縮)などを見ます。
• 特に筋肉の受動的な抵抗(例えば関節をゆっくり動かしたときの抵抗感)を確認します。
修正アシュワーススケール(Modified Ashworth Scale:MAS)が有名ですね。
筋緊張(特に痙縮:spasticity)を評価するための簡便な方法です。
臨床現場でよく使われ、リハビリテーションや中枢神経障害の評価に有用です。
脳卒中、脳性麻痺、脊髄損傷、パーキンソン症候群など、中枢神経疾患の患者さんでよく用いられます。
もともとはAshworth Scaleがあり、その後に「1+」が追加されて修正版(MAS)になりました。
◼️ 修正アシュワーススケール(MAS)とは?
簡単に言えば、
「関節を他動的に動かした時に、どれくらい筋肉が抵抗するか」
を評価するものです。
たとえば肘を曲げ伸ばしした時に、
- スムーズに動くのか
- 途中で引っかかるのか
- 強く固まっているのか
を段階的に評価します。
評価方法
基本はとてもシンプルです。
- 患者さんをリラックスさせる
- 関節を他動的に動かす
- 抵抗感を判定する
重要なのは、
- 「比較的速く」動かす
- 毎回なるべく同じ速度で行う
という点です。
痙縮は「速度依存性」があるため、ゆっくりだと出にくく、速く動かすと抵抗が増えます。
MASの判定基準
評価スコアは以下の通りです。
|
スコア |
説明 |
|
0 |
筋緊張の増加なし
完全に正常。 |
|
1 |
軽度の筋緊張増加
関節可動域の終わり頃に、 |
|
1+ |
軽度の筋緊張増加
可動域の半分未満の範囲で軽い抵抗が続く。 「1」と「2」の中間のような状態。 |
|
2 |
より明らかな筋緊張増加 可動域の大部分で抵抗を感じる。 ただし関節は比較的容易に動かせる。 |
|
3 |
著明な筋緊張増加 他動運動がかなり困難。 強い抵抗感がある。 |
|
4 |
硬直状態
屈曲・伸展ともにほぼ動かない。 |
※イメージとしては
- 0〜1:軽い引っかかり
- 1+〜2:明らかに硬い
- 3:かなり動かしにくい
- 4:ほぼ固定
という感じです。
評価するときの注意点
① 痙縮だけを見ているわけではない
MASは便利ですが、
- 関節拘縮
- 筋短縮
- 疼痛
- 不安
- 防御性収縮
なども含めて「抵抗」として感じてしまいます。
つまり、
「MASが高い=純粋な痙縮が強い」とは限りません。
ここは臨床で非常に重要です。
② 評価者間誤差がある
人によって、
- 動かす速さ
- 力加減
- 感じ方
が違うため、ばらつきがあります。
特に「1」と「1+」は迷いやすいです。
③ 速度依存性を意識する
痙縮は速度依存性なので、
- ゆっくりでは抵抗なし
- 速いと急に引っかかる
という特徴があります。
これは痙縮を理解する上でとても重要です。
④ 痙性を評価するには便利ですが、低緊張は評価できません。(これ大事!)
MASの限界
MASは非常に普及していますが、実は問題点も多いです。
たとえば、
- 「痙縮」と「拘縮」を区別しにくい
- 定量性が低い
- 評価者依存
- 神経生理学的な痙縮そのものを正確に反映しない
など。
そのため最近では、
- Tardieu Scale
- Modified Tardieu Scale(MTS)
なども重視されています。
特にTardieu Scaleは、
- 速い速度
- 遅い速度
を分けて評価するため、
「神経性の痙縮」と「筋・軟部組織の硬さ」を区別しやすい特徴があります。
臨床ではどう使う?
実際には、
- 経時的変化を見る
- 治療前後比較
- ボツリヌス治療前後
- リハ介入の効果判定
などに使われます。
例えば、
「肘屈筋 MAS3 → MAS1+」
となれば、
「かなり他動運動しやすくなった」という解釈ができます。
臨床で大切な視点
MASはあくまで「一つの指標」です。
本当に重要なのは、
- その筋緊張がADLにどう影響しているか
- 痛みがあるか
- 動作に役立っている部分はないか
- 介助量にどう関係するか
です。
筋緊張は単純に「悪いもの」ではありません。
たとえば重度麻痺では、ある程度の伸展緊張が立位を支えていることもあります。
だからこそ、
「MASを測ること」より、「その筋緊張が生活にどう影響しているか」
を考えることが、臨床ではとても大切です。

【動作時の筋緊張の評価】
実際、臨床では
「MASは低いのに歩くと突っ張る」
「ベッド上では柔らかいのに動作になると強く出る」
ということはよくあります。
これは、MASが基本的には「受動的(他動的)な筋緊張」を見ているからです。
しかし実際の生活では、人は「動きながら」筋緊張を使っています。
そのため、動作時の筋緊張をみるには、MASだけでは不十分です。
動作時の筋緊張で大切なこと
動作時には単純な「硬さ」だけではなく、
- 姿勢制御
- 共同運動
- バランス反応
- 恐怖
- 努力性
- 疲労
- 注意
- 感情
なども影響します。
つまり、
「その筋緊張が、いつ・どこで・なぜ出るのか」を見る必要があります。
動作時筋緊張の具体的な見方
① 動作中に“どのタイミングで”出るかを見る
例えば歩行。
- 立脚初期?
- 遊脚?
- 方向転換?
- 立ち上がり直後?
で意味が変わります。

例
- 立位になると下肢伸展パターンが強くなる
- 歩行速度を上げると内反尖足が増える
- 疲れると上肢屈曲が強くなる
など。
② 「役に立っている緊張」かを見る
これはすごく重要です。
筋緊張は悪者扱いされがちですが、
例えば、
- 下肢伸展緊張で立位保持している
- 体幹固定に使っている
- 膝折れを防いでいる
ことがあります。

つまり、
“代償としての筋緊張”です。
これを単純に落とすと、逆に動けなくなることもあります。

③ 課題難易度で変わるかを見る
筋緊張は、
- 難しい課題
- 急ぐ
- 緊張
- 二重課題
で増えやすいです。

例えば、
- 普通歩行では問題ない
- 会話しながら歩くと緊張増加
- 狭い場所で固まる
など。
これは実生活では非常に重要です。
④ “速度”との関係を見る
痙縮は速度依存性です。
例えば、
- ゆっくり立ち上がると問題ない
- 急ぐと突っ張る
なら痙縮の影響が強い可能性があります。

⑤ 姿勢変化でどう変わるかを見る
- 仰臥位では柔らかい
- 座位で増える
- 立位で急に強くなる
これは抗重力活動や姿勢制御と関係しています。
動作時評価でよくみる具体場面
歩行
- 内反尖足
- 反張膝
- 股内転
- 上肢屈曲共同運動
立ち上がり
- 下肢伸展パターン
- 体幹過伸展
- 努力時の固定
上肢動作
- リーチ時屈曲パターン
- 把持で指屈曲増強
- 努力時共同運動
実際には「観察」が非常に重要
動作時筋緊張の評価は、
結局かなり「観察」が大事になります。
- 動画撮影
- スロー再生
- 多方向観察
はかなり有効です。
特に歩行動画は情報量が多いです。
MASだけでは見えないこと
MASが正常でも、
- 動作時のみ痙縮増強
- effort-dependent spasticity
- associated reaction(連合反応)
が強い方もいます。
逆にMASが高くても、ADLは意外と安定している方もいます。
だから、
「MASの点数」ではなく、
「その人の動作の中で何が起きているか」
を見ることが本質になります。
臨床での感覚としては
MASは、“筋の状態”を見る検査。
一方、動作時評価は、“その人がどうやって生活を成立させているか” を見る評価。
この違いが大きいと思います。
だからこそ、リハビリではベッド上だけでなく、
- 起きる
- 座る
- 立つ
- 歩く
- 持つ
- 振り向く
を実際に見ることがとても重要になります。
【まとめ】
• 「安静時」と「動作時」の両方をセットで見るのが正解。
• どちらかだけだと、例えば「安静時に緊張が強いけど、動作時は意外と動ける」みたいなパターンを見逃します。
• 評価する筋肉や動作は、その患者さんに必要な動作(立位保持、歩行、食事動作など)に合わせて選びます。
以上、筋緊張の見方について、簡単にまとめてみました。
新人の方には少し参考になりましたでしょうか。
最後まで読んでくださいまして、ありがとうございました。
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