医療者には当たり前。でも患者さんには伝わらない ― ROM、ADL、QOL……専門用語を「生活の言葉」に翻訳する

医療者には当たり前。でも患者さんには伝わらない  ― ROM、ADL、QOL……専門用語を「生活の言葉」に翻訳する

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医療者には当たり前。でも患者さんには伝わらない

― ROM、ADL、QOL……専門用語を「生活の言葉」に翻訳する

患者さんやご家族に説明をする機会は、医療現場ではとても多くあります。

病気のこと。

治療のこと。

リハビリのこと。

今後の生活のこと。

そのとき、私たち医療者は「伝えているつもり」になってはいないでしょうか。

医療の世界には、医療者同士では何の違和感もなく使っている言葉がたくさんあります。

でも、その言葉を患者さんやご家族が同じように理解しているとは限りません。

たとえば、リハビリではよく、

「ROMをやります」

と言います。

理学療法士や作業療法士なら、ほとんど迷わず意味が分かるでしょう。

でも患者さんからすれば、

「ROMって何?」です。

医療者の中には「ロム」と言ったりする人もいるから、なお分かりませんね。

 

ROMと言われても分からない

ROMとは、Range of Motionの略で、「関節可動域」という意味です。

でも、

「今日はROM訓練をします」

と説明しても、一般の方にはほとんど伝わりません。

では、

「関節可動域訓練をします」

なら分かるでしょうか。

これも、医療者には分かりますが、患者さんにはまだ難しい言葉です。

もっと生活の言葉にすると、

「関節が硬くならないように、ゆっくり動かしますね」

くらいになります。

ここまで言えば、かなりイメージしやすくなります。

同じ内容でも、

「ROM」

「関節可動域訓練」

「関節が硬くならないように動かす」

では、伝わり方がまったく違います。

医療者にしか通じない言葉は、実はかなり多い

ROMだけではありません。

リハビリの現場では、普段何気なく使っている言葉の中に、一般の方には意味が分かりにくいものがたくさんあります。

たとえば、

ADL。

Activities of Daily Livingの略で、一般には「日常生活動作」と訳されます。

でも患者さんに、

「ADLが低下しています」

と言っても、まず分かりません。

「日常生活動作が低下しています」

でも少し難しい。

それより、

「着替えたり、トイレに行ったり、食事をしたりすることに、少し手助けが必要になっています」

と説明した方が伝わります。

QOLも、言葉だけでは伝わりにくい

QOLも医療では頻繁に使われます。

Quality of Life。

日本語では「生活の質」などと訳されます。

最近は一般の人にも少し浸透したでしょうか。

でも、

「QOLを高めましょう」

と言われても、

「結局、何を高めるの?」

と思う人もいるでしょう。

QOLという言葉が表しているものは、とても広いものです。

痛みが少ないこと。

好きなことができること。

家族と過ごせること。

自分で選べること。

眠れること。

外へ出られること。

人と話せること。

安心して暮らせること。

場合によっては、

「歩けるようになること」よりも、「孫と一緒に食事ができること」の方が、その人にとって大切

かもしれません。

そう考えると、

「QOL」

という一言より、

「その人が大切にしている生活を、できるだけ続けられるように考えましょう」

と説明する方が、ずっと本質に近いこともあります。

「サークルウォーカー」も通じるとは限らない

リハビリ室には、さまざまな歩行補助具があります。

四脚歩行器。

ピックアップ歩行器。

前腕支持型歩行器。

歩行車。

サークルウォーカー。

医療者や介護職なら名前を聞いて形が浮かぶかもしれません。

でも患者さんや家族に、

「次はサークルウォーカーで歩いてみましょう」

と言っても、

「それは何ですか?」

となることがあります。

そういうときは、

「身体の周りを囲むような形の歩行器を使って歩いてみましょう」

と言った方が伝わります。

名前を覚えてもらう必要がない場面なら、専門名称よりも形や目的を説明する方が早いのです。

※ちなみに私は名前の由来は良く知りませんが、その形からサークル(輪)という名前になったと思われます。

 

「全介助」「見守り」「軽介助」も説明が必要

リハビリや介護の現場では、

「全介助」

「中等度介助」

「軽介助」

「見守り」

といった言葉も頻繁に使います。

スタッフ同士なら便利な言葉です。

しかし患者さんや家族が同じ意味で理解しているとは限りません。

たとえば「見守り」と聞いて、

「一人でできます」

と思う人もいます。

でも医療者が言う「見守り」は、

「基本的には自分でできるけれど、転倒などに備えて近くに人がいた方がよい」

という意味かもしれません。

「軽介助」も、

「ちょっと手伝う」

では曖昧です。

立ち上がりのときに身体を少し支えるのか。

ズボンを上げるところだけ手伝うのか。

階段で手を添えるのか。

何をどのくらい手伝うのかまで説明する方が親切です。

 

「離床」も患者さんには伝わらないことがある

医療者は、

「今日は離床しましょう」

と簡単に言います。

離床とは、簡単に言えばベッドから起きて過ごすことです。

でも患者さんにとっては聞き慣れない言葉です。

それなら、

「今日は少しベッドから起きて、椅子に座ってみましょう」

「昼食は車椅子に座って食べてみましょう」

と、具体的に説明した方が分かります。

 

「廃用」も注意したい言葉

「廃用症候群」

「廃用が進んでいます」

という言葉もよく使われます。

医療者には、

「動かないことによって筋力や体力、関節の動きなどが低下する」

という意味で通じます。

しかし「廃用」という漢字だけを見ると、

「使えなくなった身体」

のように感じてしまう人もいるかもしれません。

患者さんには、

「長く動かないでいると、筋力や体力が落ちてしまいます」

と説明する方が自然です。

専門用語には、意味だけでなく受け取ったときの印象にも注意が必要です。

 

「拘縮」も、説明なしでは伝わらない

リハビリでは、

「拘縮があります」

とよく言います。

でも「拘縮」という言葉を知っている患者さんは多くありません。

それなら、

「関節の周りが硬くなって、動く範囲が狭くなっています」

と説明した方が分かりやすいでしょう。

さらに、

「このまま硬くなると、服を着たり、オムツ交換をしたりするときに動かしにくくなるので、今のうちから動きを保っていきます」

と生活に結びつければ、リハビリの目的まで伝わります。

 

「筋緊張が高い」も、そのままでは分かりにくい

神経疾患の患者さんでは、

「筋緊張が高い」

「痙性が強い」

といった言葉を使います。

これも医療者同士なら短くて便利です。

でも患者さんには、

「力を抜こうとしても、筋肉が勝手に硬くなりやすい状態です」

などと説明した方がイメージできます。

「力を抜いてください」と言われても、本人が意図的に力を入れているとは限りません。

専門用語を生活の言葉に変えることで、患者さんへの誤解も減ります。

 

医療用語だけではなく「略語」にも注意

医療現場には略語があふれています。

ROM。

ADL。

QOL。

PT。

OT。

ST。

CT。

MRI。

SpO₂。

BP。

HR。

もちろん必要な場面では便利です。

しかし患者さんに、

「今日はOTのあとCTです」

「SpO₂が少し下がっています」

などと言っても、意味が分からないことがあります。

「作業療法のあとにCT検査があります」

「血液の中の酸素の値が少し下がっています」

と伝えるだけでも、かなり分かりやすくなります。

 

専門用語を使うこと自体が悪いわけではない

ここは誤解をしていただきたくないところなのですが、

私は、専門用語を使ってはいけないと言いたいわけではありません。

専門用語には大きなメリットがあります。

短い言葉で、共通した意味を伝えられることです。

医療者同士なら、

「右肩屈曲ROM 90度」

と書けば、かなり多くの情報が短い言葉で共有できます。

毎回、

「右肩を前から上に上げたとき、腕が床に対して約90度の位置までしか上がりません」

と書いていたら大変です。

専門用語は、医療者同士の情報共有には非常に便利です。

問題は、

相手が変わっても同じ言葉を使ってしまうこと。

です。

 

「誰に話しているのか」で言葉を変える

同じ内容でも、相手によって使う言葉は変わります。

たとえばROMなら、

医療者同士なら、

「肩関節屈曲ROMが制限されています」

で十分です。

他職種に説明するなら、

「肩の可動域が狭くなっています」

くらいでもいいでしょう。

患者さんには、

「肩が少し硬くなっていて、腕が上げにくくなっています」

家族には、

「肩が硬くなっているので、着替えのときに腕を通しにくくなっています」

と説明すると、生活との関係まで分かります。

これは言葉を簡単にしているだけではありません。

相手に必要な情報へ翻訳している

のです。

 

「簡単に話す」と「子ども扱いする」は違う

一方で、分かりやすく説明しようとして、必要以上に幼い言葉を使うのも違うと思います。

患者さんは、医療用語を知らないだけです。

理解する能力がないわけではありません。

ですから、

専門用語を避けることと、

相手を子ども扱いすることは別です。

私は、

「難しいことを、内容を薄めずに分かりやすく説明する」

ことが大切だと思っています。

これは意外と難しい作業です。

 

「説明した」ではなく「伝わったか」

もう一つ大切なのは、

説明したことと、理解されたことは違う

ということです。

医療者が一生懸命説明して、

「分かりましたか?」

と聞けば、多くの患者さんは、

「はい」

と答えるかもしれません。

でも、本当に理解しているとは限りません。

分からなくても、

「何度も聞いたら申し訳ない」

「先生が忙しそう」

「これ以上質問すると迷惑かもしれない」

と思ってしまう人もいます。

そこで、

「分かりましたか?」

だけではなく、

「家に帰ったら、どんなふうにやりますか?」

「今のお話を、ご家族に説明するとしたらどう説明しますか?」

と聞いてみる方法があります。

本人の言葉で説明してもらうと、どこまで伝わったのかが分かります。

これは患者さんを試験するためではありません。

私たちの説明が分かりやすかったか確認するためです。

 

身振りやイラストを使った方が早いこともある

そして、言葉だけにこだわる必要もありません。

私はイラストを描いていることもあって、特にそう思います。

「股関節を外転してください」

と言うより、

絵を見せて、

「脚をこの方向へ開きます」

と説明した方が一瞬で伝わることがあります。

歩行器も、

「サークルウォーカー」

と説明するより、その器具を見せれば早い。

関節の動きも、イラストで示せば理解しやすい。

言葉を分かりやすくするだけでなく、

写真、イラスト、身振り、実物を組み合わせる。

これも大切なコミュニケーションだと思います。

 

分かりやすい説明は「医療の質」の一部

専門用語を使って、

正しいことを説明した。

だから説明責任を果たした。

それだけでは十分ではないと思います。

患者さんが理解できなければ、

運動方法を間違える。

薬の飲み方を間違える。

禁止されている動作をしてしまう。

逆に、怖がって必要な活動まで避けてしまう。

そんなことも起こり得ます。

つまり、

分かりやすく説明することは、単なる親切ではありません。

安全な医療につながる大切な技術でもあります。

 

私自身も、つい使ってしまう

偉そうに書いてきましたが、私自身も失敗します。

長く同じ仕事をしていると、

「ROM」

「ADL」

「離床」

「拘縮」

「介助」

といった言葉が、あまりにも日常的になってしまいます。

自分の中では普通の日本語になっている。

だから、

「これくらいは分かるだろう」

と思ってしまうのです。

でも、その「普通」は、医療者の中だけの普通かもしれません。

これは長く働けば働くほど、気をつけなければならないことなのかもしれません。

 

専門用語を「生活の言葉」に変えてみる

最後に、いくつか例を並べてみます。(これでも、ごく一部です)

医療者が使う言葉 患者さんへの説明例
ROM 関節がどのくらい動くか
ROM訓練 関節が硬くならないように動かす運動
ADL 食事・着替え・トイレなど毎日の生活動作
QOL その人らしく、納得して生活できること
拘縮 関節の周りが硬くなって動きにくい状態
離床 ベッドから起きて座ったり活動したりすること
全介助 ほとんどの動作を誰かに手伝ってもらう状態
見守り 自分でできるが、安全のため近くで見ている状態
廃用 長く動かないことで筋力や体力などが落ちること
サークルウォーカー 身体を囲む形をした歩行器
筋緊張が高い 力を抜こうとしても筋肉が硬くなりやすい状態
荷重 足や腕に体重をかけること
免荷 痛めたところに体重をかけない・減らすこと
移乗 ベッドから車椅子などへ乗り移ること

もちろん、これが唯一の正解ではありません。

患者さんの年齢、理解力、経験、その場の状況によって説明方法は変わります。

だからこそ大切なのは、

「この言葉は、目の前の人に伝わるだろうか?」

と一度考えることなのだと思います。

まとめ

医療者は、毎日のように専門用語を使っています。

それ自体は悪いことではありません。

専門用語は、専門職同士で正確に情報を共有するために必要です。

でも、

専門職同士で便利な言葉と、患者さんに伝わる言葉は同じではありません。

ROMを、

「関節可動域」

と言い換えるだけでは足りないことがあります。

さらに一歩進んで、

「関節が硬くならないように動かします」

と生活の言葉に変える。

ADLなら、

「日常生活動作」

で終わらず、

「着替えたり、トイレに行ったりする動作」

まで説明する。

QOLなら、

「生活の質」

だけではなく、

「その人が大切にしている生活」

まで話す。

医療者に必要なのは、専門用語をたくさん知っていることだけではありません。

専門的なことを、目の前の人に分かる言葉へ翻訳する力。

それも、医療者に必要な大切な技術の一つなのだと思います。

そして私自身も、

ついつい「これくらい分かるだろう」と思ってしまうことがあります。

気をつけねば。

 

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