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筋力より先に衰える?
〜加齢とともに低下する「筋パワー」とは?〜
「年をとると筋力が落ちる」
これは、多くの人が知っていることだと思います。
だから健康のために、
「スクワットをしましょう」
「筋肉をつけましょう」
と言われることも多いでしょう。
もちろん、筋力を維持することはとても大切です。
しかし、加齢によって低下する身体能力の中には、もう一つ注目してほしいものがあります。
それが、
「素早く力を出す能力」
です。
研究の世界では、主に筋パワー(muscle power)と呼ばれています。
そして、この筋パワーは、最大筋力よりも早く、大きく低下する傾向があることが報告されています。
「筋力」と「筋パワー」は同じではありません
例えば、重い荷物を持ち上げる場面を考えてみましょう。
時間をかければ持ち上げられる。
これは「筋力」があるということです。
一方で、
必要な瞬間に、素早く大きな力を出せるか。
こちらには「筋パワー」が関係します。
筋パワーは大まかには、
筋パワー = 力 × 速度
と考えることができます。
つまり、どれだけ大きな力を出せるかだけではなく、どれだけ速くその力を発揮できるかが重要なのです。

年をとると「力」だけでなく「速さ」が失われる
加齢によって筋肉量や筋力が低下することはよく知られています。
しかし研究を見ると、筋パワーは筋力以上に大きく低下することが示されています。
Baltimore Longitudinal Study of Agingの研究では、筋力と筋パワーはいずれも中年期以降に低下し、特に男性では筋パワーの低下が筋力より大きいことが報告されています。
また、高齢者を対象にした研究やレビューでも、筋パワーは加齢による身体機能の変化を考えるうえで重要であり、単なる最大筋力だけでは捉えられない能力だとされています。
つまり、
「力がなくなった」だけではありません。
まだ力そのものは残っていても、
「素早く力を出せなくなった」
という変化が先に目立ってくることがあるのです。

日常生活では「素早く力を出す」場面が意外と多い
では、なぜ筋パワーが大切なのでしょうか。
私たちの日常生活を考えてみましょう。
椅子から立ち上がる。
階段を上る。
少し急いで道路を渡る。
ふらついたときに一歩踏み出す。
こうした動作では、単純に「強い筋肉」があればよいわけではありません。
必要なタイミングで素早く力を出す能力が求められます。
特に転びそうになったときなどは、
「よし、これから踏ん張ろう」
と考えている時間はありません。
瞬間的に足を出したり、身体を支えたりする必要があります。
そのため、高齢者の身体機能を考えるときには、最大筋力だけではなく筋パワーにも目を向ける必要があります。

筋パワーはトレーニングできる
ここまで読むと、
「年齢とともに落ちるなら仕方がない」
と思われるかもしれません。
でも、そうとは限りません。
高齢者でも、素早く力を出すことを意識したトレーニングによって筋パワーが改善することが研究で確認されています。
例えば、高齢者を対象とした研究では、比較的軽いものから重い負荷までを使い、持ち上げる局面をできるだけ速く行うトレーニングによって筋パワーが改善しました。
ここには、とても大事なポイントがあります。
パワートレーニング=激しいジャンプ
ではないのです。
「素早く力を出す」という要素を運動に取り入れることがポイントになります。
ジャンプスクワットをやってみよう
その代表的な運動の一つが、
ジャンプスクワット
です。
基本的な方法は次のようになります。
- 足を肩幅程度に開いて立ちます。
- 膝と股関節を曲げ、軽くスクワットします。
- 床を強く押すようにして、素早く身体を伸ばします。
- その勢いで軽くジャンプします。
- 膝と股関節を柔らかく曲げながら着地します。
- 姿勢を整えてから、次のジャンプを行います。
ここで大切なのは、
高く跳ぶことではありません。
床を素早く押して、短時間で力を発揮することが目的です。
最初はほんの少し両足が床から離れる程度でも構いません。
いきなりジャンプしなくてもいい
ここは特に強調しておきたいところです。
「筋パワーを鍛えるにはジャンプしなければならない」
というわけではありません。
むしろ、運動に慣れていない人や高齢者が、いきなりジャンプスクワットを始めるのはおすすめできません。
私は次のように段階をつけて考える方がよいと思います。
① 普通のスクワット
まず安全にスクワットができることを確認します。
↓
② 素早く立ち上がるスクワット
しゃがんだところから「スッ」と素早く立ちます。下りるときはゆっくり行います。
↓
③ 勢いよく伸び上がる
素早く立ち上がり、最後にかかとが浮く程度まで身体を伸ばします。
↓
④ 小さなジャンプスクワット
十分に安定して行えるようになったら、両足が少し床から離れる程度のジャンプを加えます。
↓
⑤ ジャンプスクワット
安全に着地できることを確認しながら、徐々に運動の強さを調整します。
この順番なら、
「筋力トレーニング」から「パワートレーニング」へ
少しずつ移行できます。
「速く上がって、ゆっくり下りる」
ジャンプが難しい人には、もう一つ覚えておいてほしい方法があります。
それが、
「上がるときは速く、下りるときはゆっくり」
です。
例えば椅子からの立ち上がりなら、
座った状態から、
スッと素早く立つ。
そして、
ゆっくり座る。
これだけでも、「できるだけ素早く力を発揮する」というパワートレーニングの考え方を取り入れることができます。
高齢者を対象とした研究でも、必ずしもジャンプではなく、軽〜中等度の負荷を意図的に速く動かすトレーニングが用いられています。

ジャンプスクワットは全員に適した運動ではありません
ジャンプスクワットは有効なトレーニングになり得ますが、誰にでもおすすめできる運動ではありません。
特に、
膝・股関節・腰などに強い痛みがある人、バランスが不安定な人、転倒リスクが高い人、運動を制限される心臓・血管系などの病気がある人は注意が必要です。
また、着地を安定して行えない状態で無理にジャンプすると、転倒や関節への負担につながります。
「ジャンプできるか」ではなく、
その人にとって安全な方法で、素早く力を出す練習ができるか。
こちらを考えることの方が大切です。
筋肉は「強さ」だけを見ない
老化対策というと、
「筋肉をつけよう」
「筋力を落とさないようにしよう」
という話になりがちです。
もちろん、それは間違っていません。
でも私たちが日常生活で必要としているのは、単純な最大筋力だけではありません。
必要なときに、
素早く立つ。
素早く踏ん張る。
素早く一歩を出す。
そんな能力も、私たちの身体を支えています。
だから、
「どれくらい力があるか」だけではなく、「どれくらい素早く力を出せるか」。
年齢を重ねていくほど、この視点も大切になってくるのではないでしょうか。
そして筋パワーは、年齢とともに低下する能力ではありますが、適切なトレーニングによって鍛えることのできる能力でもあります。
「もう年だから仕方ない」で終わらせず、
今できる運動の中に、ほんの少しだけ、
「素早く動く」
という要素を取り入れてみる。
それも、これからの身体を守る一つの方法なのです。

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