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COPD患者に腹式呼吸は本当に有効なのか?~うまくいかない理由と代替アプローチ~
呼吸リハビリテーションの場面で、COPD(慢性閉塞性肺疾患)患者さんに腹式呼吸を指導する機会は少なくありません。
しかし実際には、「なかなかうまくできない」「かえって息苦しそうになる」と感じた経験がある医療者も多いのではないでしょうか。

今回は、COPD患者に腹式呼吸がうまくいかない理由と、より効果的な呼吸指導について考えてみたいと思います。
◼️ COPD患者で腹式呼吸がうまくいかない理由
理由は次に挙げる4つです。
1.横隔膜が働きにくい状態になっている
COPDでは気道閉塞によって肺に空気が溜まりやすくなります。いわゆる「肺の過膨張(air trapping)」です。
肺が常に膨らんだ状態になると、横隔膜は本来のドーム状の形を失い平坦化します。
すると、
- 横隔膜の筋力発揮が低下する
- 呼吸効率が悪くなる
- 呼吸仕事量が増える
といった問題が生じます。
つまり、「横隔膜をもっと使いましょう」と指導しても、そもそも横隔膜が十分に働けない状態になっていることがあるのです。

2.呼吸補助筋に依存している
COPD患者は慢性的な呼吸困難のため、
- 胸鎖乳突筋
- 斜角筋
- 大胸筋
- 小胸筋
などの呼吸補助筋を積極的に使用しています。
そのような患者さんに腹式呼吸を強く意識させると、かえって普段利用している補助筋の働きを抑えてしまい、
- 換気量の低下
- 息苦しさの増強
につながる場合があります。
3.「お腹を出すこと」が目的になってしまう
腹式呼吸の指導でよく見られるのが、
「お腹を膨らませること」
だけが目的になってしまうケースです。
実際には、
- 腰を反らせる
- 骨盤を前傾させる
- 腹筋を緩める
だけで、お腹は膨らみます。
しかし、それは必ずしも十分な吸気を意味しません。
見かけ上は腹式呼吸ができているように見えても、換気効率は改善していないことがあります。

4.重症例では胸腹逆運動がみられる
重症COPDでは横隔膜疲労により、吸気時に腹部がへこむ「胸腹逆運動」がみられることがあります。
このような状態では、通常の腹式呼吸を習得すること自体が難しく、無理な指導は患者さんの負担になる可能性があります。
◼️ 腹式呼吸を成功させるためのポイント
「腹式呼吸」よりも「横隔膜呼吸」を意識する
大切なのは、お腹を膨らませることではありません。
目的はあくまでも横隔膜を効率的に使うことです。
「お腹を出してください」ではなく、
「下の肺に空気を送るイメージで吸いましょう」
といった説明の方が理解しやすい場合があります。
つまり横隔膜を中心とした下部胸郭呼吸という考え方です。
お腹だけを見るのではなく、
- 下位肋骨
- 側胸郭
- 背側胸郭
の動きを確認すれば良いでしょう。
仰臥位や半座位から始める
立位や歩行中にいきなり練習するのではなく、
- 仰臥位
- 半座位
など比較的楽な姿勢から開始します。
重力の影響が少なく、腹部の動きも確認しやすくなります。
手を使ったフィードバック
患者さんの腹部に手を置き、
「手を押し上げるように吸ってみましょう」
と伝える方法は有効です。
特に認知機能低下や失語症を伴う患者さんでは、言葉だけよりも身体的なフィードバックの方が理解しやすいことがあります。
まずはしっかり吐くことを意識する
COPD患者の問題は「吸えない」ことよりも「吐けない」ことにあります。
そのため、
- ゆっくり吐く
- 呼気時間を長くする
ことを優先すると、肺の過膨張が軽減し、結果として吸気もしやすくなります。
◼️ COPDで最も有効な呼吸法は口すぼめ呼吸
現在でもCOPD患者への呼吸指導として最も広く推奨されているのは口すぼめ呼吸です。
口すぼめ呼吸の効果
- 呼気時の気道内圧を維持する
- 末梢気道の虚脱を防ぐ
- air trappingを軽減する
- 呼吸困難感を軽減する
などの効果が期待できます。
患者さん自身も効果を実感しやすく、日常生活の中で取り入れやすい方法です。

◼️ 実際の臨床ではどう考えるべきか
かつては、
「COPD=腹式呼吸」
という指導が一般的でした。
しかし現在では、
「すべてのCOPD患者に腹式呼吸を指導する」という考え方は見直されつつあります。
特に重症例では、
- 口すぼめ呼吸
- 前傾座位
- 呼吸ペーシング
- 上肢支持位(Tripod Position)
などの方が症状軽減に結びつくことも少なくありません。

◼️ まとめ
COPD患者に対する腹式呼吸は、必ずしも万能ではありません。
肺の過膨張によって横隔膜が働きにくくなっている患者では、腹式呼吸がうまくいかないこともあります。
重要なのは、「腹式呼吸を教えること」ではなく、「患者さんが少しでも楽に呼吸できる方法を見つけること」です。
呼吸リハビリテーションでは、腹式呼吸に固執せず、口すぼめ呼吸や呼吸ペーシングなども含めて、その患者さんに最適な呼吸パターンを探していくことが大切ではないでしょうか。
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