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ヘッドアップ位での排痰|上体を起こすことにはどんな意味がある?
これまで、排痰を目的としたいくつかのポジショニングについて紹介してきました。
側臥位での呼吸介助(→こちら)
半腹臥位・前傾側臥位での呼吸介助(→こちら)
座位での呼吸介助(→こちら)
そして今回は、
「ヘッドアップ位」
です。
ヘッドアップ位とは、ベッドの背もたれを起こして、上半身を挙上した姿勢です。
病院ではとてもよく見る姿勢ですよね。
食事をするとき。
呼吸が苦しいとき。
痰を出したいとき。
長時間の臥床から身体を起こしていくとき。
いろいろな場面で使われます。
では、排痰という視点から見ると、
「上体を起こす」ことにはどんな意味があるのでしょうか?

ヘッドアップ位にすると呼吸はどう変わる?
仰向けに寝ていると、腹部臓器の影響を受けて横隔膜は頭側へ押し上げられやすくなります。
そこから上体を起こすと、腹部臓器による横隔膜への圧迫が軽減し、横隔膜が動きやすくなる場合があります。
また、胸郭も動かしやすくなり、患者さんによっては呼吸そのものが楽になります。
つまりヘッドアップ位は、
「痰を移動させるためだけの姿勢」ではなく、まず呼吸しやすい環境をつくるための姿勢
として考えることができます。

排痰にヘッドアップ位をどう利用する?
ここで少し重要なことがあります。
ヘッドアップ位にしたからといって、
それだけで痰が上へ流れてくるわけではありません。
体位ドレナージでは、分泌物が存在する肺区域や気管支の走行などを考えて姿勢を選びます。
その一方で、実際の排痰では、
「痰を動かすこと」だけでなく、
「動いてきた痰を最終的に外へ出すこと」
も重要です。
上体を起こすことで呼吸がしやすくなれば、深呼吸やハフィング、咳などを行いやすくなる患者さんもいます。
そのためヘッドアップ位は、
分泌物を直接移動させるための姿勢というより、その後の排出につなげる姿勢として役立つこともある
と考えておくとよいでしょう。
「上部に痰があるからヘッドアップ」だけではない
排痰のための姿勢は、痰の位置だけで決まるものではありません。
ヘッドアップは何度がいい?
「では、ベッドを何度まで上げればいいの?」
と思うかもしれません。
ここには一律の正解はありません。
30°程度で楽になる人もいれば、もう少し起こした方が呼吸しやすい人もいます。
逆に、上体を起こしすぎることで身体がずり落ち、
骨盤が後傾して身体が「くの字」になってしまう
こともあります。
これでは必ずしも楽な呼吸姿勢とはいえません。
大切なのは、
「○度にする」ことより、患者さんがその姿勢でどう呼吸しているかを見ること。
ベッドの角度だけでなく、枕やクッション、骨盤の位置、上肢の置き場所なども調整します。

まず胸郭に手を添えてみる
まず両手を胸郭に軽く添えます。
そして患者さんに自然に呼吸してもらいます。
吸気で胸郭がどのように広がるのか。
呼気でどのように戻るのか。
左右差はないか。
呼吸が速すぎないか。
患者さんが力んでいないか。
まずは、
「押すための手」ではなく「呼吸を感じるための手」
として使います。

必要なら呼気に合わせて軽く介助する
元の記事では、
呼気に合わせて、胸郭を斜め下方に押し下げます。
と説明していました。
今回も、ここは少し表現を変えます。
胸郭を強く押し下げることが目的ではありません。
必要に応じて、患者さんの呼気に合わせて胸郭が自然に戻っていく動きを軽く介助します。
そして次の吸気が始まったら力を抜き、胸郭が自然に広がるのを妨げないようにします。
手は離さず、そのまま軽く添えておけば、
吸気で広がる胸郭と、呼気で戻る胸郭
の両方を感じることができます。
「強く押すほど痰が出る」わけではない
以前は「スクイージング」という言葉から、
胸郭をギュッと絞り込む
ようなイメージを持つこともあったかもしれません。
しかし、胸郭を強く押せば痰がたくさん出る、というものではありません。
特に高齢者では、骨粗鬆症や肋骨骨折、脊椎圧迫骨折などにも注意が必要です。
痛みが出る。
呼吸が苦しくなる。
身体がこわばる。
SpO₂が低下する。
こうした反応があれば方法を見直します。
そもそも徒手的な呼吸介助を加えず、ヘッドアップというポジショニングだけを利用する患者さんもいます。
ヘッドアップ位では「ずり落ち」にも注意
これは今回の記事ではぜひ入れておきたいところです。
ベッドの背もたれだけを起こすと、患者さんの身体が足元方向へずり落ちることがあります。
すると、
骨盤が後傾する。
腰が丸くなる。
腹部が圧迫される。
頸部が前へ出る。
といった姿勢になりやすくなります。
せっかく上体を起こしたのに、かえって呼吸しにくい姿勢になってしまうこともあります。
ですから、
ベッドを起こしたら終わりではありません。
患者さんの身体がどこにあるのか。
頭や首は楽か。
胸郭は動きやすいか。
腹部は圧迫されていないか。
足元へずり落ちていないか。
そこまで確認します。
これは排痰だけでなく、食事や呼吸管理などでも重要なポジショニングの考え方です。
ヘッドアップ位は「次の排痰動作」につなげやすい
ヘッドアップ位の大きな特徴は、ここにもあると思います。
体位変換などによって分泌物が中枢側へ移動してきたら、最終的には外へ出さなければなりません。
そこで、
深呼吸。
ハフィング。
咳。
必要に応じて吸引。
などにつなげます。
寝たままでは咳をしにくかった患者さんでも、上体を起こすことで行いやすくなる場合があります。
つまり、
側臥位や腹臥位などで分泌物の移動を促す
↓
ヘッドアップ位へ
↓
ハフィング・咳などで外へ出す
という流れも考えられます。

ヘッドアップ位が難しい場合もある
もちろん、上体を起こせばよい患者さんばかりではありません。
血圧が低い。
起立性低血圧がある。
循環動態が不安定。
体幹保持が難しい。
疼痛が強い。
医師から体位の制限を受けている。
こうした場合には、患者さんの状態に合わせて角度を調整します。
急に大きく起こすのではなく、患者さんの反応を見ながら少しずつ調整することも大切です。
まとめ|「起こすこと」そのものが目的ではない
ヘッドアップ位は、病院ではとても身近な姿勢です。
しかし排痰という視点から考えると、
単に、
「痰を出すためにベッドを起こす」
というだけではありません。
上体を起こすことで横隔膜や胸郭が動きやすい条件をつくる。
呼吸をしやすくする。
患者さん自身の深呼吸を引き出す。
ハフィングや咳につなげる。
必要に応じて胸郭の動きを軽く介助する。
そうした一連の流れの中で利用する姿勢です。
そして大切なのは、
「ベッドを何度起こしたか」ではなく、その姿勢で患者さんがどう呼吸しているか。
側臥位でも。
前傾側臥位でも。
腹臥位でも。
ヘッドアップ位でも。
基本的な考え方は同じです。
患者さんを姿勢に合わせるのではなく、患者さんに合わせて姿勢をつくる。
ヘッドアップ位も、排痰を助けるための選択肢のひとつとして考えていきたいですね。
おまけ:排痰(スクイージング)のイラスト
色違いも載せておきます。よろしかったらお使いくださいね。





ありがとうございました。
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