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モルックはリハビリになる? 〜ボッチャとの違いを理学療法士の視点から考える〜
今度、モルックをするかもしれない
最近、「モルック」というスポーツを知りました。
今度、自分でも体験する機会があるかもしれません。
名前は聞いたことがありましたが、どんな競技なのか、ルールもよく分かりません。
調べてみると、木の棒を投げて、数字の書かれた木製のピンを倒すスポーツらしい。
なんだ、的当てのようなものか。
そう思ったのですが、どうやらそれだけではないようです。
得点を計算しながら、ちょうど50点を目指すのだとか。
ここで少し心配になりました。
私は病気をしてから、数字や計算が以前より苦手になっています。
棒を投げることはできても、点数を計算したり、次に何点取ればよいのか考えたりすることについていけるだろうか。
そんなことを考えながら調べているうちに、理学療法士としても興味が湧いてきました。
モルックは、リハビリテーションにも活用できるのだろうか。
また、似たような競技として「ボッチャ」がありますが、何が違うのでしょう。
今回は、まだ体験する前の予習も兼ねて、少し整理してみたいと思います。

モルックとはどんなスポーツ?
モルックは、フィンランドで1996年に開発されたスポーツです。
フィンランドの伝統的な遊びをもとに考案されたもので、年齢や性別にかかわらず楽しめる競技として親しまれています。
使う道具は主に3つです。
- モルック: 投げるための木製の棒
- スキットル: 1から12までの数字が書かれた12本の木製ピン
- モルッカーリ: 投げる位置を示す目印
基本的には、3〜4mほど離れたところに置かれたスキットルを、木製の棒を下手投げして倒します。
倒した結果によって点数が決まり、先に合計50点ちょうどになった人やチームが勝ちです。
ただし、50点を超えてしまうと、得点は25点に戻ってしまいます。
また、3回連続で1本も倒せなければ失格になります。
なかなか厳しいルールですね。
得点の数え方が少し独特
例えば、「8」と書かれたスキットルを1本だけ倒したとします。
この場合は8点です。
ところが、「8」「10」「12」の3本を倒した場合は、30点ではありません。
倒した本数の3点になります。
つまり、
1本だけ倒したら、そのピンの数字が得点。
2本以上倒したら、倒した本数が得点。
ということです。
倒れたスキットルは、その場所で再び立てます。
ゲームが進むにつれてピンが散らばっていくため、最初とは違う狙い方が必要になります。
なるほど。単純にたくさん倒せばよいというわけではありません。
50点に近づいてきたら、どのピンを狙うかを考えなければなりません。
これは運動能力だけでなく、計算や作戦も必要な競技ですね。

ボッチャとは何が違うのか?
モルックについて調べていて、私が思い出したのはボッチャです。
ボッチャは、パラリンピックの正式競技としても知られています。
白い目標球(ジャックボール)に向かって、赤と青のボールを投げたり転がしたりして、どちらがより近づけられるかを競います。
相手のボールを押しのけたり、目標球そのものを動かしたりすることもできます。
こちらも、力任せでは勝てません。
投げる方向や距離を正確に調節する技術と、相手の動きを予測する戦略が必要です。

モルックとボッチャには、似ているところもあります。
どちらも目標物に向かって道具を投げ、方向や距離、力の大きさを調節します。
一方、競技の目的や身体的な条件には違いがあります。
| 比較項目 | モルック | ボッチャ |
| 競技の目的 | ピンを倒して50点ちょうどを目指す | 白い目標球に自分のボールを近づける |
|
道具 |
木製の棒とピン | 赤・青・白のボール |
| 得点 | 数字や倒した本数を加算 | 相手球より目標球に近い自球の数 |
| 主な運動 | 下手投げでピンを倒す | 投球・転がしなどで位置を調節 |
| 戦略 | 得点計算と狙うピンの選択 | ボールの配置や相手への対応 |
| 身体条件への対応 | 距離や姿勢を工夫して楽しめる | 車椅子やランプなどを用いた競技体系がある |
ボッチャは、重度の身体障害がある人も競技できるように発展してきたスポーツです。
障害の程度や競技クラスによっては、ランプという補助具を使用してボールを送り出すこともできます。
モルックも座って投げるなどの工夫はできますが、それは通常の競技ルールを変更した楽しみ方になります。
この違いは知っておきたいところです。
理学療法士から見たモルックの特徴
では、モルックはリハビリテーションに活用できるのでしょうか。
理学療法士として考えると、いくつかの興味深い要素があります。

① 立位バランスと重心移動
立って棒を投げる場合、上肢を動かしながら姿勢を保持する必要があります。
投げる方向や距離によって、体幹や下肢の使い方も変わります。
そのため、立位バランスや重心移動を練習する課題として応用できそうです。
ただし、棒を投げることによって、必ずバランス能力が改善するというわけではありません。
患者さんの能力に合わせて、立位の条件や難易度を調整する必要があります。
② 上肢の協調運動と力の調節
モルックでは、狙ったピンに向かって棒を投げます。
遠くのピンを狙うときと、近くのピンを狙うときでは、必要な力が違います。
肩、肘、手関節などを協調させながら、投げる方向や力を調節しなければなりません。
特に、運動失調のある患者さんにとっては、こうした運動の正確性や力の調節が課題になることがあります。
ただし、失調があるからモルックを行えばよい、という単純な話ではありません。
標的の大きさや距離、姿勢、投げる道具などを調整し、本人に適した難易度にすることが重要です。
③ 注意機能・計算・遂行機能
私が個人的に気になっているのは、この部分です。
モルックでは、得点を覚え、次に何点必要なのかを考え、狙うピンを決めます。
そのため、注意、記憶、計算、計画、状況に応じた判断など、さまざまな認知機能が関係します。
例えば、現在の得点が43点だったとします。
50点にするには、あと7点。
そこで7番のスキットルを1本だけ倒すことを狙います。
ところが、隣のピンまで倒してしまえば、得点は倒した本数になってしまいます。
目標を決め、実行し、結果を確認し、次の作戦を考える。
確かに、認知的な要素の多いゲームです。
しかし、計算が苦手な人にとっては、その部分が負担になる可能性もあります。
私自身、実際に参加するときには少し心配です。
でも、得点計算をほかの人に手伝ってもらえば、競技を楽しむことはできます。
計算を練習したい人は自分で取り組み、投球を楽しみたい人は計算を手伝ってもらう。
同じ競技でも、目的によって参加の仕方を変えられるわけです。
④ 意欲とコミュニケーション
リハビリテーションでは、運動を繰り返すことが必要になる場面があります。
しかし、同じ動作を何度も繰り返すことは、なかなか退屈です。
その点、ゲームには目標があります。
「あのピンを倒したい」
「今度こそ成功させたい」
「次はどうしよう」
そんな気持ちが自然に生まれます。
チームで行えば、相談したり、応援したりする機会も増えます。
ただ運動するだけでなく、人と関わりながら楽しめることも、モルックの魅力なのでしょう。
モルックをすれば、リハビリになるのか?
ここは、少し慎重に考えたいところです。
モルックには、立位バランス、協調運動、認知機能などを使う要素があります。
だからといって、モルックをすれば、それらの機能が改善するとは限りません。
ある機能を使うことと、その機能が改善することは、同じではないからです。
例えば、片麻痺の患者さんが立ってモルックを行ったとしても、それだけで歩行能力が改善するとは言えません。
運動失調のある患者さんが繰り返し棒を投げても、その効果が日常生活の動作にまで広がるとは限りません。
理学療法として利用するのであれば、
何を改善したいのか。
そのために、どのような運動課題を設定するのか。
難易度は適切か。
そして、実際に変化があったのか。
こうした評価が必要です。
なお、モルックそのものが特定の疾患の運動機能や認知機能を改善するという効果については、十分に確立されているとは言えません。
楽しめる活動であることと、治療効果が証明されていることは、分けて考えたいと思います。
リハビリで使うなら、どんな工夫ができるだろう
通常のモルックでは、3〜4mほど離れた位置から投げます。
しかし、リハビリの場で使用するのであれば、必ずしも通常の競技条件にこだわる必要はないでしょう。
例えば、次のような工夫が考えられます。
- 立位が不安定な人: 座位から投げる。
- 投球の調節が難しい人: ピンまでの距離を短くする。
- 上肢の筋力が低下している人: 安全性を考慮し、軽い代替用具を使う。
- 計算が苦手な人: 得点表や電卓を使い、ほかの人に計算を手伝ってもらう。
- 認知的な負担が大きい人: まずは得点を気にせず、ピンを倒すことを楽しむ。
ただし、これは競技としてのモルックではなく、目的に合わせてルールを変更した活動です。
また、転倒の危険がある人に無理に立位で行わせたり、重い棒を安全確認なしに投げさせたりすることは避けなければなりません。
参加者の身体機能や認知機能に合わせて、安全に楽しめる方法を考えることが大切です。

ICFの視点で考えると、もう一つの意味がある
ここまで、モルックをリハビリの手段として考えてきました。
でも、少し視点を変えてみたいと思います。
モルックを楽しむこと自体が、患者さんの目標になる場合もあるのではないでしょうか。
例えば、病気によって外出の機会が減り、人と交流することが少なくなった人がいたとします。
モルックを通じて地域の集まりに参加し、仲間と話したり、ゲームを楽しんだりする。
それは単なる運動機能の改善ではありません。
社会参加の機会が増えたということです。
ICF(国際生活機能分類)の視点で考えると、モルックには心身機能、活動、参加、環境因子などが関係しています。
投げる動作には身体機能が関係します。
ゲームを行うことは活動です。
仲間と集まり、地域のイベントに参加することは社会参加につながります。
また、座位で参加できるようにしたり、得点計算を手伝ったりすることは、環境を調整することでもあります。
「モルックを使って機能を改善する」だけでなく、「モルックを楽しめるように支援する」という考え方もあるのです。
私は、この視点も大切にしたいと思います。

計算が苦手でも、参加していい
今回、モルックについて調べ始めたのは、自分が体験する機会があるかもしれないからでした。
正直なところ、得点計算や作戦を考えることには、少し不安があります。
以前なら、そこまで気にしなかったかもしれません。
でも、病気になってからは、こうしたことも気になるようになりました。
理学療法士として患者さんを見ていた頃には、ゲームの中に含まれる運動や認知機能ばかりに目を向けていたかもしれません。
しかし、参加する側になってみると、別のことも考えます。
ルールが理解できなかったらどうしよう。
みんなについていけなかったらどうしよう。
計算を間違えて、迷惑をかけたらどうしよう。
実際に参加する前から、そんな心配をしているわけです。
でも、よく考えれば、得点計算を手伝ってもらってもいいはずです。
投げることだけを楽しんでもいい。
慣れてきたら、自分でも作戦を考えてみればいい。
何もかも一人でできなければ、参加する資格がないわけではありません。
これは、以前から私がリハビリテーションについて考えてきた「自立」の問題にも通じるように思います。
おわりに|まずは楽しんでみたい
モルックとボッチャは、どちらも目標に向かって道具を投げ、力や方向を調節するスポーツです。
しかし、モルックは数字を使った得点計算が特徴であり、ボッチャは目標球との位置関係をめぐる戦略が特徴です。
また、ボッチャは重度の身体障害がある人も競技できるように発展してきたという背景があります。
どちらも、リハビリテーションに応用できる可能性があります。
ただし、ゲームを行うことが、そのまま治療になるわけではありません。
理学療法として使うのであれば、目的を明確にし、評価と介入を組み立てる必要があります。
一方で、運動機能の改善だけを目的にしなくてもよいのだと思います。
仲間と一緒に楽しむ。
失敗して笑う。
うまく投げられたら喜ぶ。
そんな時間を持つこと自体にも意味があります。
今度モルックを体験する機会があれば、まずは楽しんでみたいと思います。
計算については、少し手伝ってもらうことになるかもしれませんが。
実際にやってみたら、また感想を書こうと思います。
参考資料
- 一般社団法人 日本モルック協会「モルックについて」
- 一般社団法人 日本ボッチャ協会「ボッチャとは」
- World Health Organization. International Classification of Functioning, Disability and Health (ICF). 2001.
※本記事のリハビリテーションへの応用例は、競技の特性をもとにした臨床的な考察です。モルック固有の治療効果が確立していることを示すものではありません。
ありがとうございました。
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