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めまい(前庭)のリハビリ⑤
なぜ疲れやすくなるの?― 前庭障害と脳疲労の関係 ―
「スーパーへ行っただけなのに、ぐったりしてしまう。」
「人混みを歩くと、家に帰る頃には何もする気が起きない。」
「少し外出しただけなのに、一日中疲れが残る。」
前庭障害を経験した方から、このような話をよく聞きます。
私自身も、
「なぜこんなに疲れるのだろう。」
と不思議に思っていました。
筋力が落ちているわけではない。
心臓や肺が悪いわけでもない。
それなのに、とても疲れる。
実は、この疲れの原因の一つは、
脳がいつも以上に働いていることにあります。
今回は、「脳疲労」という視点から前庭障害を考えてみましょう。

前庭が弱ると、脳は「穴埋め」を始める
健康な人では、
前庭(耳)が、
「頭がどちらへ動いたのか」
「身体が傾いているのか」
という情報を脳へ正確に送っています。
そのため脳は、
ほとんど意識しなくても、
自然に姿勢や視線を保つことができます。
しかし、
前庭障害では、
この情報が少なくなったり、
左右で一致しなくなったりします。
すると脳は、
「足りない情報を他の感覚で補おう。」
と働き始めます。
視覚。
足裏の感覚。
筋肉や関節の感覚。
これらを以前よりも細かく利用して、
身体の状態を推測しているのです。
つまり、
脳は毎日、
「不足した情報を補うための”穴埋め作業”」を続けています。

スーパーは「情報の洪水」
では、
なぜスーパーへ行くだけで疲れるのでしょうか。
スーパーでは、
商品が棚いっぱいに並び、
人が歩き回り、
カートが動き、
音楽が流れ、
照明も明るく、
次々に視界が変わります。
脳は、
- 商品を見る
- 値段を読む
- 人を避ける
- カートを押す
- バランスを保つ
これらを同時に処理しています。
前庭障害があると、
さらに
「身体が傾いていないか。」
「景色は安定しているか。」
という確認まで加わります。
つまり、
普通なら自動で行えることを、
脳が一つひとつ意識的に処理しているのです。
これが、
買い物だけで疲れてしまう理由です。

人混みはさらに大変
人混みでは、
状況はもっと複雑になります。
周囲の人は、
さまざまな方向へ歩いています。
誰かが急に止まり、
誰かが横切ります。
その中で、
自分の身体の向きを保ち、
人を避けながら歩く必要があります。
前庭が十分に働かない状態では、
脳は絶えず情報を整理し続けます。
その結果、
短時間でも強い疲労を感じることがあります。
これは、
「体力がないから」
ではありません。
脳が休む暇なく働いているからなのです。

疲れるのは回復していないからではありません
ここで安心してほしいことがあります。
疲れやすいからといって、
回復が止まっているわけではありません。
むしろ、
脳は毎日、
新しい身体に適応しようと頑張っています。
前庭代償が進むにつれて、
情報処理は少しずつ効率よくなります。
すると、
以前ほど疲れなくなり、
買い物や外出も少しずつ楽になってきます。
だからこそ、
無理をする必要はありません。
適度に休みながら、
少しずつ活動を増やしていくことが大切です。
前庭リハビリも、
この「脳の学習」を助けるために行われています。

おわりに
前庭障害で感じる疲れは、単なる「体力不足」ではありません。
その背景では、
脳が不足した情報を補いながら、
毎日バランスを保とうと働いています。
つまり、
疲れやすさは、脳が一生懸命に適応しようとしている証拠でもあるのです。
もちろん、無理をし過ぎる必要はありません。
休息を取りながらリハビリを続けることで、脳は少しずつ効率よく情報を処理できるようになります。
「今日はスーパーへ行けた。」
「人混みでも少し楽だった。」
そんな小さな変化も、脳が学習を積み重ねている大切なサインなのです。

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