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排痰補助装置(MIE)の導入と実際 〜呼吸筋麻痺へのサポート〜
神経難病や筋疾患の患者さんでは、呼吸筋が徐々に弱くなり、咳をして痰を出す力(咳嗽力)が低下します。
咳が弱いと気道に分泌物が貯まり、無気肺や肺炎のリスクが高まります。
このような場面で導入されるのが、排痰補助装置(MIE:Mechanical Insufflation–Exsufflation)です。
僕の働いている病院ではPHILIPS製のクリアウェイ2MIEを使用しています。
僕が以前に働いていた病院ではMIEの操作は主に看護師の仕事であり、理学療法士は徒手的排痰介助を一緒にやることが多かったのですが、
今の病院では導入も理学療法士の仕事になっているため、改めて導入のやり方を調べているところです。
今回は、MIEの導入手順から設定、注意点までを丁寧に解説しますね。

◼️ MIE(Mechanical Insufflation–Exsufflation)とは
MIEは「機械的吸気と呼気の切り替え」で自然な咳動作を人工的に再現する装置です。
自然な咳は次の流れで起こります。
吸気 → 声門閉鎖 → 呼気筋収縮 → 声門開放 → 急速な呼気
MIEでは、
「吸気相で陽圧(+)」→「呼気相で陰圧(−)」
を交互にかけることで、
気道内の空気流速を上げて痰を動かすことを目的とします。
◼️ 導入の目安
ではMIEはどんな患者に導入されるのでしょうか?
客観的な指標はCPF(咳嗽ピークフロー)です。
「咳が弱いかどうか」を判断するために使われるのが、CPFです。
● 目安
- 270 L/min以上 → 問題なし
- 160〜270 L/min → 要注意
- 160 L/min未満 → 排痰困難(MIE適応)
特に
- 筋萎縮性側索硬化症
- 筋ジストロフィー
といった神経筋疾患では、この指標が非常に重要になります。
■ CPFが測れないときはどうする?
実際の臨床では、測定できないことも多いと思います。
その場合は、シンプルに観察します。
- 咳が弱い(「フッ」としか出ない)
- 痰が上がってこない
- 吸引が必要になる
- ゴロゴロ音が残る
- 無気肺や肺炎を繰り返す
👉 これらがあれば、
「咳が機能していない」と判断して良い状態です。
■ どんな患者さんに使うのか(臨床像)
● 神経筋疾患
- 筋ジストロフィー
- 筋萎縮性側索硬化症
呼吸筋が弱く、咳そのものが成立しません。
👉 最も適応がはっきりしている領域です
● 脳卒中後・意識障害
咳のタイミングが作れない状態です。
👉 咳を“代わりに作る”目的で使用
● 高齢・廃用
筋力低下や疼痛で咳が弱くなっています。
👉 「出したいけど出せない」タイプ
● 慢性閉塞性肺疾患
咳はあるが非効率なケース。
👉 ただし慎重適応(やりすぎ注意)
● 抜管後
呼吸は回復しても咳が弱いことがあります。
👉 再挿管予防として有効
◼️ 導入手順
① 評価と準備
• 呼吸状態(SpO₂、呼吸数、努力呼吸)を確認
• 分泌量・気道音の評価
• 吸引器を準備(呼気後に使用)
• マスク、マウスピース、または気管カニューレ接続部を確認
② 初期設定(成人の目安)
|
項目 |
推奨設定値 |
|
吸気圧(+) |
+20〜+25 cmH₂O |
|
呼気圧(−) |
−20〜−25 cmH₂O |
|
吸気時間 |
1.5〜2秒 |
|
呼気時間 |
1.5〜2秒 |
|
休止時間 |
1〜2秒 |
|
サイクル |
3〜5回 × 2〜3セット |
呼吸苦や不快感がなければ、最終的に±40 cmH₂O程度まで上げていきます。
呼吸筋が弱いほど、高圧にしないと十分なフローが得られません。
◼️ 実施時の観察ポイント
• 胸郭拡張(吸気で胸がしっかり膨らむか)
• 呼気時の急な胸郭のしぼみ(流速が得られているか)
• 施行中のSpO₂、表情、呼吸パターン
• 施行後のラ音やSpO₂の変化
コツ:
呼気相の直後に吸引を行うと効果的。
また、胸郭ストレッチや軽い打叩打法を組み合わせると排痰が促進されます。
◼️ 注意点・禁忌
|
区分 |
内容 |
|
禁忌 |
未治療の気胸、重度の気道出血、循環不安定、上気道閉塞など |
|
注意 |
高齢者、肺気腫、ALS終末期などでは徐々に圧を上げる |
|
留意 |
気管切開例ではカフ圧を十分に上げてエアリークを防ぐ |
◼️ オシレーション機能付きMIE
最近のMIE装置(例:CoughAssist E70など)には「オシレーション機能」が搭載されています。
先ほど紹介したクリアウェイ2にも付いています。
吸気・呼気の間に**小刻みな圧振動(5〜15Hz)**を加えることで、
気道壁に付着した分泌物を剥がしやすくし、排痰効率を高めます。
オシレーション = 「微細な振動で痰を動かす補助機能」
症例によっては、従来の設定よりも楽に痰が出る印象があります。
◼️ リハビリスタッフの役割
理学療法士や作業療法士が関わる場合は、
MIEの施行だけでなく、胸郭可動性の改善や体位排痰を組み合わせることが重要です。
• 胸郭ストレッチ(特に前胸部・肋間筋)
• 体位ドレナージ(分泌物の移動方向に重力を利用)
• 吸気介助(air stacking や breath stacking)との併用
MIE単独よりも、呼吸リハ全体の一環として組み込むことが大切です。
◼️ 効果判定
MIE導入後に以下の変化があれば効果ありと判断します。
• SpO₂の上昇(または維持)
• 胸郭拡張の改善
• ラ音の減少
• CPF(咳嗽ピークフロー)の改善(200 L/min 以上が目安)

■ よくある誤解
「痰が多いからMIEを使う」
これは半分正しくて、半分間違いです。
👉 正しくは
「咳で出せないから使う」
◼️ まとめ
|
項目 |
内容 |
|
目的 |
咳嗽力低下による痰貯留を防ぐ |
|
適応 |
神経筋疾患による呼吸筋麻痺 |
|
設定 |
吸気+20〜40 / 呼気−20〜40 cmH₂O |
|
回数 |
3〜5回 × 2〜3セット |
|
併用 |
胸郭ストレッチ、体位ドレナージ、吸引 |
MIEは「機械で咳を作る」だけの装置ではありません。
患者さんが「自分で呼吸を取り戻す感覚」を得られるよう、
安全で丁寧な導入と観察が欠かせません。

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