〈スポンサーリンク〉
シリーズ作業を考える 第3回
作業が奪われると、人はどうなるのか
― 役割を失うということ ―
リハビリの現場で、よく耳にする言葉があります。
「歩けるようになっても、行くところがない」
この言葉を初めて聞いたとき、私は少し驚きました。
歩けるようになることは、とても大きな回復のはずです。
しかし患者さんの言葉には、どこか空虚さが含まれていました。
そのとき気づいたのは、
人は身体だけで生きているわけではないということでした。

◼️ 失われるのは動作だけではない
病気や障害によって、できなくなることがあります。
•歩くこと
•料理すること
•仕事をすること
•外出すること
これらは一見すると、身体機能の問題に見えます。
しかし実際には、それ以上のものが失われています。
例えば、長年料理をしてきた人が料理をできなくなったとします。
料理という行為だけではなく、
•家族に食事を作る役割
•台所に立つ習慣
•家族との会話の時間
も同時に失われてしまいます。
作業は単なる動きではありません。
その人の生活の中の役割
でもあるのです。
◼️ 役割が人を支えている
私たちは普段、いくつもの役割を持って生きています。
•親

•配偶者

•仕事人

•友人
•地域の一員
そしてそれぞれの役割の中で、作業を行っています。
例えば
•家族のために料理を作る
•職場で仕事をする
•孫と散歩に行く

•友人とお茶を飲む
こうした作業の積み重ねが、
その人の生活を形づくっています。
役割とは、言い換えれば
社会の中での自分の居場所
でもあります。
◼️「何もすることがない」という言葉
入院している患者さんが、こう言うことがあります。
「ここでは何もすることがない」
これは単に退屈という意味ではありません。
多くの場合、その背景には
役割の喪失
があります。
入院すると
•仕事をしない
•家事をしない
•家族の世話もしない
それまで当たり前に行っていた作業が、突然なくなります。
すると人は、自分の存在感を見失い始めます。
「自分はここで何をしているのだろう」
そんな感覚が生まれてしまうのです。
◼️ 作業が戻ると人は変わる
一方で、作業が戻ると人は驚くほど変わることがあります。
例えば、
退院後に「簡単な料理」を再開した患者さんがいました。
料理といっても、最初は簡単なものでした。
しかしその方は言いました。
「久しぶりに家の仕事をした気がする」
その日から、表情が明るくなり、
リハビリにも積極的になりました。
身体機能が劇的に回復したわけではありません。
ただ
役割が戻った
のです。

◼️ 作業はその人の人生につながっている
作業という言葉は、少し事務的に聞こえるかもしれません。
しかし実際には、
•役割
•習慣
•社会とのつながり
•生きがい
が含まれています。
人は作業を通して
•家族とつながり
•社会とつながり
•自分の居場所を見つけています。
だから作業が失われると、
人は自分の存在感を失いやすい
のかもしれません。
◼️ リハビリが見ているもの
リハビリは、筋力や歩行を改善するだけではありません。
その先にあるものは、
生活の回復です。
もう一度、
•料理をする
•散歩に行く
•仕事に戻る
•誰かの役に立つ
そんな作業が戻るとき、
人は再び自分らしい生活を取り戻していきます。

◼️ おわりに
病気や障害は、身体機能を奪うことがあります。
しかしそれ以上に、
作業や役割を奪ってしまう
ことがあります。
人は、何かをすることで社会とつながっています。
そしてその作業が、
その人の人生を形づくっています。
リハビリとは、
身体を動かせるようにすることだけではありません。
その人の作業を取り戻すこと
でもあるのだと思います。
〈スポンサーリンク〉