〈スポンサーリンク〉
浴槽をまたぐにはどうする?―立って入る方法・座って入る方法と安全に行うポイント
お風呂に入る。
普段は何気なく行っている動作ですが、病気やけがをしたあと、高齢になって身体機能が低下したときには、急に難しい動作になります。
特に難しいのが、
「浴槽の縁をまたぐ」
という動作です。
浴室は床が濡れて滑りやすいうえに、浴槽の縁には高さがあります。
片脚を持ち上げて浴槽をまたぐときには、一時的に片脚立ちに近い状態にもなります。
ですから、歩くことができる人でも、
「浴槽にはうまく入れない」
ということがあります。
今回は、浴槽への入り方を大きく、
①立って浴槽をまたぐ方法
②座って浴槽をまたぐ方法
の2つに分けて考えてみます。

浴槽をまたぐ動作は、意外と難しい
浴槽に入るためには、単に脚が上がればいいわけではありません。
立ってまたぐのであれば、
- 立っていられる
- 片脚に体重をかけられる
- 反対側の脚を浴槽の縁より高く持ち上げられる
- 手すりなどを使いながら身体の向きを変えられる
- 濡れた環境でもバランスを保てる
といった能力が必要になります。
さらに浴槽の中へ入ったあとには、身体を低くして湯船につかり、最後にはそこから立ち上がらなければなりません。
つまり、
「浴槽をまたげた=安全に入浴できる」ではありません。
入るところから出るところまで、一連の動作として考える必要があります。
浴室では転倒予防のため、適切な手すりや浴槽台・バスボードなどの福祉用具が使われます。
① 立って浴槽をまたぐ方法
立位が十分安定していて、脚を浴槽の縁より高く上げられる場合には、立ったまま浴槽をまたぐ方法があります。

基本的には、
- 浴槽の近くまで移動する
- 安定した手すりを持つ
- 片脚を浴槽の中へ入れる
- 入れた脚が安定したことを確認する
- もう一方の脚を浴槽へ入れる
という流れになります。

ここで重要なのは、「どちらの脚から入るか」だけで方法を決めないことです。(イラストでは右足からにしていますが)
麻痺や筋力低下がある場合でも、浴槽の向き、手すりの位置、支持しやすい脚、脚の上げやすさなどによって適切な方法は変わります。
実際の浴室で動作を確認して決めた方がよいでしょう。
立位で大切なのは「上げる脚」だけではない
浴槽またぎを見ると、つい、
「脚が浴槽を越えられるか」
に注目してしまいます。
でも私は、それと同じくらい、浴槽の外に残っている脚を見る必要があると思います。
右脚を持ち上げて浴槽へ入れるなら、その間、身体を支えているのは主に左脚です。
脚を高く上げられても、支持している脚がふらつけば転倒する可能性があります。
さらに浴槽の縁を越える瞬間には、重心も移動します。
ですから、
「脚が上がるか」だけでなく、「反対の脚で身体を支えられるか」
を見ることが大切です。

② 座って浴槽をまたぐ方法
立ったまま片脚を上げることに不安がある場合には、座って浴槽をまたぐ方法があります。

浴槽の横に安定した椅子や移乗用の台を設置して、まず座ります。
そして、
- 安定した椅子などに座る
- 浴槽側へ臀部を寄せる
- 必要に応じて手すりなどで身体を支える
- 片脚ずつ浴槽の中へ移す
- 身体の向きを浴槽側へ変える
という流れで移ります。
立位でまたぐ方法との大きな違いは、
片脚を上げている間も、お尻で身体を支えられる
ことです。
そのため、立位バランスに不安がある人では、座位の方が適している場合があります。
バスボードを使う方法
座位での浴槽移乗を助ける代表的な用具がバスボードです。
浴槽の縁に安定して設置したボードへ腰掛け、
座る → 身体を回す → 片脚ずつ浴槽側へ入れる
という使い方ができます。病院の患者向け資料でも、バスボードは浴槽上に固定して、先に座ってから身体を回し、脚を浴槽の縁越しに移す方法として紹介されています。
立った状態で浴槽の縁をまたぐ必要がないため、立位バランスが低下している場合の選択肢になります。

ただし、
「バスボードを置けば安全」ではありません。
浴槽の幅や形に合っているか。
きちんと固定できているか。
座った状態で身体の向きを変えられるか。
脚を浴槽内へ持ち上げられるか。
手すりはどこにあるか。
介助者はどこから手伝うのか。
こうしたことまで確認する必要があります。バスボードにはサイズ・支持方法・耐荷重などさまざまな種類があり、適合や安全性を考えて選ぶ必要があります。
またバスボードを使った場合、湯に浸かるときにボードが邪魔になってしまうということが起こりえます。
身体を方向転換して向きを変えることが必要になります。動作確認や手すりの配置位置を考えましょう。
このほか、バスボード上に座ったままシャワーを浴びるという使い方もあります。必ずしも浴槽の底まで身体を下ろす必要はありません。
「立てるから立位で」は少し違う
ここは、この記事で特に伝えたいところです。
患者さんが立てると、
「じゃあ、立ってまたげますね」
と考えたくなります。
でも、
立てることと、安全に浴槽をまたげることは同じではありません。
普通に立っているだけなら両脚で身体を支えられます。
浴槽をまたぐときには、片脚を持ち上げ、重心を移動させ、浴槽の縁を越えなければなりません。
しかも実際の浴室は濡れています。
病棟の平らな床でできた動作が、そのまま自宅の浴室でできるとは限りません。
だからこそ、
「立てるか」ではなく「この浴室で、この方法なら安全にできるか」
で考える必要があります。
浴槽の高さだけを見ても分からない
もう一つ重要なのが環境です。
同じ身体機能でも、
- 浴槽の縁の高さ・幅
- 浴槽の深さ
- 洗い場の広さ
- 床の滑りやすさ
- 手すりの位置
- 椅子やバスボードを置けるスペース
- 浴槽と座面の高さ
- 扉の位置
- 介助者が立てる場所
によって難易度はかなり変わります。
つまり、
「この患者さんは浴槽またぎができる」
ではなく、
「この患者さんは、この浴室なら、この方法でできる」
と考えた方が実際の生活に近いと思います。
「訓練室ではできた」から、もう一歩
リハビリでは、訓練室に浴槽を想定した台を置いて、またぎ動作を練習することがあります。
これはもちろん大切です。
ただ、訓練室は床が平らで、広く、療法士も介助しやすい環境です。
自宅では、
「手すりが反対側だった」
「浴槽の縁が思ったより高かった」
「椅子を置いたら狭くて身体を回せなかった」
ということもあります。
可能であれば浴室の寸法や写真なども確認し、実際の生活環境に近い条件で練習することが重要です。

入ることより、出ることが難しい場合もある
浴槽に入れたから安心、とは限りません。
入浴後は身体が温まり、疲れていることがあります。
浴槽の底から立ち上がる。
脚を浴槽の外へ出す。
濡れた床へ降りる。
これらを考えると、
入浴前より、出るときの方が難しい人もいます。
ですから評価するときには、
「浴槽へ入れるか」
だけではなく、
「最後まで安全に出てこられるか」
まで確認したいところです。

介助する家族の安全も忘れない
本人だけでなく、介助者の安全も重要です。
狭く濡れた浴室で、家族が患者さんの身体を抱えて持ち上げようとすると、本人の転倒だけでなく、介助者が腰を痛める可能性もあります。
移動や移乗の介助では、適切な方法を専門職から教わり、必要に応じて福祉用具を利用することが、本人と介助者双方の安全につながります。
「家族が頑張って持ち上げれば何とかなる」
という方法は、長く続ける生活としては考え直した方がよい場合があります。

浴槽に入ることだけが「入浴」ではない
もう一つ付け加えておきたいことがあります。
どうしても浴槽に入るのが難しい場合、
「何としても浴槽に入らなければ」
と考える必要はありません。
シャワーチェアに座ってシャワー浴をする。
バスボード上で身体を洗う。
体調や身体機能が改善するまで別の方法を使う。
そうした選択肢もあります。実際に医療機関でも、身体状況に応じてバスボードやシャワーチェアなどを使った方法が案内されています。

ただ一方で、
「やっぱり湯船につかりたい」
という気持ちも大切にしたいと思います。
入浴は単なる清潔動作ではありません。
温まる。
疲れを取る。
ほっとする。
一日の終わりを感じる。
人によっては、とても大切な生活の楽しみです。
だから「危ないからやめましょう」で終わらせるのではなく、
どうすればその人が望む入浴に近づけるのか
を考えることも、リハビリの役割だと思います。
まとめ
浴槽への入り方には、大きく分けて、
立ってまたぐ方法と
座ってまたぐ方法
があります。
どちらが優れているというものではありません。
立位バランス。
片脚で身体を支える力。
脚を持ち上げる能力。
手すりの位置。
浴槽の高さ。
浴室の広さ。
介助者の有無。
そして本人がどんな入浴をしたいのか。
そうしたものを合わせて、その人に合った方法を考えます。
浴槽をまたぐ動作は、日常生活の中でも比較的難しく、転倒にも注意が必要な動作です。
「立てるから立ってまたぐ」
「高齢だから座ってまたぐ」
と単純に決めるのではなく、
その人の身体と、その人の家の浴室をセットで見る。
必要ならPTやOTなどに実際の動作を確認してもらい、手すりやバスボードなども含めて検討してください。
安全に入れること。
安全に出られること。
そしてできれば、
「お風呂って気持ちいいな」
と思えること。
そこまで含めて「入浴」なのだと思います。

おまけ:浴槽のまたぎ動作のイラスト(立位)
色違いのイラストをいくつか描いたものがあったので、貼り付けておきますね。



おまけ:浴槽のまたぎ動作のイラスト(座位)



ありがとうございました。
〈スポンサーリンク〉
