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壁ワイピング運動とは?〜肩関節・肩甲帯の運動と重心移動を組み合わせたリハビリ〜
壁ワイピング運動とは?
今回は「壁ワイピング運動」をご紹介します。
壁ワイピング運動とは、壁に向かって立ち、タオルなどを使って壁を拭くように上肢を動かす運動です。
リハビリの現場では、肩関節の運動や上肢機能の練習として用いられることがあります。
「ワイピング」という名前は、文字どおり拭く動作から来ているのでしょうね。
似たような運動に、机の上でタオルを滑らせる「机上ワイピング」があります。
サンディングと呼ばれる運動とも共通する部分がありますが、施設や臨床場面によって呼び方や実施方法には違いがあります。
どちらも支持面を利用して上肢を動かす運動ですが、机上と壁面では、上肢に働く重力の方向や支持のされ方が異なります。
そのため、同じワイピング運動でも、目的に応じて使い分ける必要があります。
壁ワイピング運動では、何を練習するのか?
壁ワイピング運動には、いくつかの目的が考えられます。
例えば、肩関節や肩甲帯の運動を促すことです。
壁にタオルを当て、上肢を左右や上下に動かすことで、肩関節の運動に加えて、肩甲骨の動きも伴います。
肩関節を挙上するときには、肩甲上腕関節だけでなく、肩甲骨の上方回旋や後傾なども関係しています。
そのため、肩の運動を考えるときには、上腕骨の動きだけでなく、肩甲帯の動きにも注目したいところです。
ただし、壁ワイピングを行えば肩関節可動域が改善する、と単純に言えるわけではありません。
可動域制限の原因が疼痛なのか、軟部組織の短縮なのか、あるいは運動制御の問題なのかによって、適切な運動は異なります。
また、壁に手を接触させることで、触覚や圧覚などの感覚入力も得られます。
こうした感覚情報を利用しながら、上肢を動かす練習として用いることもできるでしょう。
ただし、感覚入力が得られることと、感覚障害そのものが改善することは別の話です。
大切なのは、壁ワイピングという運動を行うことではなく、その運動で何を練習したいのかを明確にすることだと思います。
壁に手をつくことには、どんな意味があるのか?
壁ワイピングの特徴の一つは、壁という支持面を利用することです。
上肢を空中で動かす場合と比べると、壁に手を接触させることで、手の位置や動く方向を把握しやすくなる場合があります。
また、壁を軽く押しながら動かすことで、上肢に圧縮方向の力を加えることもできます。
ただし、壁に手を当てているからといって、必ずしも十分な荷重がかかっているわけではありません。
タオルを軽く滑らせるだけの場合と、意図的に壁を押しながら動かす場合では、上肢に求められる筋活動が異なります。
壁への荷重量は、身体の位置や手を押しつける力によって変わります。
また、壁面での運動では、タオルと壁の摩擦も影響します。
タオルが滑りにくければ、運動に必要な力が大きくなることがあります。
逆に、滑りやすい素材を使えば、比較的小さな力でも動かせるでしょう。
このように、壁ワイピングの負荷は、単純に手を動かす距離だけで決まるものではありません。

壁ワイピング運動の方法
では、実際の運動方法を説明します。
今回は、右上肢で行う場合を例にします。
① 壁に向かって立つ
まず、壁に向かって立ちます。
足は肩幅程度に開き、安定した姿勢をとります。
壁との距離は、肩や肘に無理な力が入らず、手を壁に当てられる位置に調整してください。
壁から遠すぎると、上肢を前方へ大きく伸ばす必要があり、肩への負担が増えることがあります。
逆に近すぎると、動かせる範囲が狭くなってしまいます。

② 壁にタオルを当てる
次に、右手と壁の間にタオルを挟みます。
手の高さは、肩の状態に合わせて調整します。
最初から高い位置に手を挙げる必要はありません。
肩に痛みがある場合や、挙上が難しい場合には、低い位置から始めても構いません。
壁には軽く手を当て、無理に押しつけないようにします。

③ タオルを左右に動かす
その姿勢から、壁を拭くように右手をゆっくり横へ動かします。

続いて、反対方向へ戻します。

この動作を繰り返します。
運動中は、肩関節だけでなく、肩甲帯や体幹がどのように動いているかも確認しましょう。
例えば、手を横へ動かそうとして、肩を大きくすくめたり、体幹を過度に傾けたりすることがあります。
それが運動の目的に合っているのか、代償として修正した方がよいのかを判断します。
左上肢で行う場合も、基本的な方法は同じです。
片手(イラストでは左手)を挙上し、壁との間にタオルを挟みます。

そのまま一側方向に重心移動を行いながら、壁を拭くように手を動かします。

次に、逆側の方向に重心を移動し、壁を拭くように手を動かします。

重心移動を組み合わせてみる
今回紹介する壁ワイピングでは、上肢の運動に左右への重心移動を組み合わせることもできます。
例えば、右手を右方向へ動かすときに、身体の重心も少し右へ移動させます。
続いて、手を左方向へ戻すときには、重心も左へ移動させます。
こうすることで、上肢の動きと体幹・下肢の働きを組み合わせた運動になります。

ただし、ここで考えておきたいことがあります。
肩関節の運動を目的とする場合と、重心移動を目的とする場合では、運動のさせ方が違うということです。
肩関節や肩甲帯の運動を主な目的とするなら、体幹を比較的安定させた状態で上肢を動かす方法もあります。
一方、立位での姿勢制御や重心移動を練習したい場合には、上肢の動きに合わせて身体を左右へ移動させる方法が考えられます。
この場合、単に身体を左右へ揺らすのではなく、足底への荷重がどのように変化しているか、姿勢を安定して保てているかを確認したいところです。
ただし、壁ワイピングに重心移動を加えれば、それだけでバランス能力が向上すると断定することはできません。
実際のバランス能力や歩行能力への効果は、対象者の状態や練習内容によって異なります。
運動に慣れてきたら
左右方向への運動ができるようになったら、動かす方向を変えてみてもよいでしょう。
例えば、上下方向にタオルを滑らせたり、円を描くように動かしたりする方法があります。
ただし、運動方向が変わると、肩関節や肩甲帯に求められる動きも変化します。
特に、上方へ大きく動かす場合には、肩関節の挙上角度が増えるため、疼痛や代償動作に注意が必要です。
また、タオルを滑らせる範囲を広げることが、必ずしも運動の質の向上を意味するわけではありません。
まずは無理なくコントロールできる範囲で行い、必要に応じて運動方向や範囲を調整しましょう。
麻痺がある場合には?
脳卒中後などで上肢に麻痺がある場合にも、壁ワイピングを運動課題として利用することがあります。
壁に手を接触させることで、手の位置を確認しながら上肢を動かす練習ができる場合があります。
また、麻痺側の手だけでは動かすことが難しい場合には、健側の手で麻痺側の上肢を補助する方法も考えられます。
ただし、ここは少し注意が必要です。
麻痺側の手に健側の手を重ねて、無理に上肢を動かせばよいというものではありません。
特に、肩関節の亜脱臼や疼痛がある場合、肩甲帯の動きが不十分なまま上肢を挙上すると、肩に負担をかける可能性があります。
また、筋緊張の異常や感覚障害がある場合には、本人が痛みや過剰な負荷に気づきにくいこともあります。
そのため、麻痺の程度や肩関節の状態に応じて、運動方法や介助量を調整する必要があります。
なお、壁ワイピングによって感覚入力や運動経験を得られることはありますが、それだけで麻痺の回復が促進されると断定することはできません。
上肢機能の改善を目指す場合には、日常生活で必要な動作練習なども含め、総合的に考えることが大切です。
壁ワイピングを行う際の注意点
壁ワイピングは比較的簡単な運動ですが、立位で行う場合には転倒への注意が必要です。
特に、上肢を大きく動かしたり、左右へ重心移動したりする場合には、姿勢が不安定になることがあります。
バランス能力が低下している方では、セラピストの見守りや介助のもとで行うことが望ましいでしょう。
また、肩関節に痛みがある場合や、術後で運動範囲・荷重に制限がある場合には、運動内容を個別に調整する必要があります。
壁に強く手を押しつけたり、無理に高い位置まで動かしたりする必要はありません。
立位が難しい場合には、机上ワイピングなど、より安定した姿勢で行える運動を選択することも考えられます。
実際の生活動作にもつなげたい
壁ワイピングは、壁を拭くような動作を利用した運動です。
そのため、実際の掃除動作と共通する部分もあります。
例えば、窓拭きなどは、上肢を動かしながら姿勢を調整する日常生活動作の一つですね。
もちろん、実際の窓拭きでは、窓の高さや身体の位置、使用する道具などによって負荷が変わります。
高いところへ無理に手を伸ばしたり、不安定な姿勢で行ったりすることは避けなければなりません。
それでも、練習している動作が日常生活のどのような場面につながるのかを考えることには意味があると思います。
うまくいけば、運動しながら掃除もできて一石二鳥ですね。
ただし、掃除が上手になったことと、肩関節の機能が改善したことは、必ずしも同じではありません。
ここでも、何を目的にしているのかを忘れないようにしたいものです。
まとめ|何のために壁を拭くのか?
今回は、壁ワイピング運動について紹介しました。
壁にタオルを当て、上肢を滑らせるという比較的簡単な運動です。
肩関節や肩甲帯の運動、支持面を利用した上肢の運動練習、立位での重心移動など、さまざまな目的で利用することが考えられます。
ただし、一つの運動で、これらすべての機能が改善するわけではありません。
肩の運動を練習したいのか。
上肢への荷重や感覚入力を利用したいのか。
それとも、立位での重心移動を練習したいのか。
目的によって、壁との距離、手の高さ、押しつける力、体幹の動かし方なども変わってきます。
リハビリでは、同じ運動でも、やり方次第で求められる身体機能が変わります。
だからこそ、「この患者さんに、なぜ壁ワイピングを行うのか?」
そこを考えて運動を選択することが大切なのだと思います。
ありがとうございました。
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