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私がインドのカルカッタでボランティアをしていたことは、以前お伝えしました(→こちら)。
その施設でボランティアとして働く上で、いくつか決め事があるのですが、
その中に
「個人的に患者に、物品やお金を渡してはいけない」
ということがありました。
ボランティアも長くやっていると、次第に患者さんと親密になってきますが、
その関係から金品を求められたりすることも多いと聞きます。
実際、僕自身も患者さんから、金品の援助を頼まれることが幾たびかありました。
外国との貨幣価値の差を考えると
「せっかく友達になったんだし、少しくらい援助してくれたっていいじゃないか」
って思う彼らの気持ちは分からないではないですが、
やはり規則は規則です。
同じ施設で提供されるものは皆同じであるわけですし、
管理者であるシスターを通さずに直接金品の授受が行われることは、
施設の規律を乱します。
無口で寡黙な患者さんは結果的に損をするわけだし、
そんなことが横行すると、
我先に外国人ボランティアに金品目当てにすり寄ってくる(言葉が悪いですが)患者の姿が目に浮かぶようです。
(誤解ないように言っておきますが、それだけ格差があり、インドの方々は厳しい状況に置かれていたということです。)
僕も基本的にその考え方には賛成ですし、
施設ではそのように振舞っていました。
ですが、2回ほどその規則を犯してしまったことがありました。
今考えても正解だったのかよくわかりませんが、
ちょっと苦い思い出になっています。
1つ目のエピソード(チャタジーさんの場合)
1つ目はある高齢の患者から、資金援助をして欲しいと言われたときです。
仮にチャタジーさんとします。
チャタジーさんはこう言いました。
「近々退院するから、仕事を始めるのに〇〇ルピー必要だ。歳を取ってるし中々働けないから、田舎に帰って自分でチャイの屋台をやりたい。とりあえずコンロとヤカンを買いたいからその資金をくれないか。」と。
迷いました。
〇〇ルピーといえば、日本円でそれほど多くない金額です。
日本だと2時間アルバイトすれば稼げるお金でもあります。
そんな金額で、1人の人生の手助けができれば安いものじゃないかとも考えたりしました。
悩みに悩んだ挙句、あるシスターに相談すると、
「やめなさい。こういうことはよくあります。あなたは騙されている。彼はお酒が好きで、今までも何度も入退院を繰り返している。あなたがお金を渡すと、お酒に消えていくのは目に見えている。」
と即答されました。
迷いに迷い、眠れない日々を過ごしました。
結局、散々迷って出した答えは
お金を渡すのではなく、一緒に必要物品を買いに行くという選択でした。
そのことをチャタジーさんに告げると、
一瞬彼の顔に曇りが見えたものの、最終的には了承してくれ、
マーケットに行ってヤカンとコンロ、ガラスのコップをいくつか購入しました。
彼はそれらを持って、故郷へと旅立って行きました。
その後しばらくして、チャタジーさんの姿をカルカッタ市内で見たという話を聞きました。
彼がその後コンロとヤカンを売ってお酒に変えていたかどうかはわかりません。
あくまで噂で本当のところはわかりません。
2つめのエピソード(アラムさんの場合)
もう一つはアラム(仮名)さんという若い患者との話です。
彼は結核を患っていましたが、ある程度回復したのちに施設のインド人スタッフのリーダーとして、シスターを助ける役割をしていました。
アラムさんはボランティアにも的確な指示を出してくれ、一目置かれる存在でした。
僕もいろいろお世話になったことも多く、話す機会も多くありました。
前出のチャタジーさんの話を相談した時は、
冷静に「やめたほうがいい」とアドバイスもくれた人です。
ある時、アラムさんから呼び出され、こう言われました。
「実は今度退院するから一回外で会って欲しい。カルカッタの郊外に土地を買っているから、今度はそこに家を建てて農業をしたい。」
何か嫌な予感みたいなものはありました。
でも彼の働きっぷりや誠実な態度など尊敬することも多く、
そんな誘いを無碍に断るわけにもいかず、
再会を約束しました。
彼が退院して初めての日曜日。
僕は指定された場所に行きました。
彼の服は施設にいた時と同じでしたが、汚れてボロボロになっていました。
彼が連れて行ってくれたところは、カルカッタ中心部からかなり離れた郊外で、場所も農地に適しているとは言い難いところでした。
雨季になると浸水の心配もありそうでした。
「ここに家を建てて、住めるようにしたい。まずは家の壁を作りたいから手伝って欲しい。」
型に土を流し込み、手製のレンガ作りが始まりました。
一緒に泥だらけになって数時間が経った頃、
彼がこう言ってきました。
「実はレンガを作るにはお金が足りない。少し資金援助をしてもらえないだろうか」
悩んだ挙句、断ると、
彼は寂しそうな顔をして、
「日本だったらそんなお金微々たるもんだろ?少しくらい援助してもいいんじゃないか」と言いました。
言葉に詰まって下を向くと、
彼は哀しそうな顔をして、
「ごめん」と言いました。
それ以上何も発することなく、黙々とレンガ造りに励みました。
何日か経って、彼の家の予定地に行くと、
そこには何も残されておらず、痩せこけた土地だけが残っていました。
彼が僕を騙すつもりだったのか、
その後資金繰りが出来ず土地を手放すことになったのかはわかりません。
今でも心の中にトゲのように引っかかっていることです。
あの時、資金をポンと渡してあげたらよかったのか、
彼の人生はいい方向に転がっていたのか。
僕は施設で、それこそ彼から無形の助けをたくさん得ていました。
その借りを返す必要があったのではないか。
友情も感じていたので、その間に金品が介在してしまうことに嫌な気持ちがあったのも事実です。
しかしそれでよかったのか…。
悩んでも答えは出ません。
これらの問題に正解はない
以上2つのエピソードは、
途上国と言われる国に行く若者が遭遇する大きな問題を表しています。
僕以外のボランティアの若者からも、同じような話を聞いたことがあります。
多分正解はありません。
その時々で判断していくしかないんだと思います。
あまり参考にならないかもしれませんが、
一経験談として覚えておいていただけたらと思います。
青臭い話にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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