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化学療法中の運動量の考え方―「やる・やらない」ではなく「どう調整するか」―
がん患者さんのリハビリを担当していると、
化学療法中の運動量の判断に迷う場面は少なくありません。
「今日はどこまでやっていいのか」
「無理をさせていないだろうか」
「やらなさすぎて廃用を進めていないだろうか」
そんな葛藤の中で、指標になる考え方を整理してみたいと思います。

◼️ 大前提:化学療法中でも「原則、運動は有効」
近年のがんリハビリテーションでは、
化学療法中であっても、適切に調整された運動は有効
という考え方が主流になっています。
ただし重要なのは、
運動を「する・しない」ではなく、
運動の「量」と「質」をどう調整するか
という視点です。

◼️ 運動量を決める3つの判断軸
① 血液データは「安全の下限」
Hb、血小板、好中球数などの血液データは、
運動をしてよいかどうかの最低条件を判断する材料です。
ここでの役割は、
「この日は実施してよいか」「中止すべきか」の判断。
👉
運動量そのものを決める指標ではありません。
血液データはあくまで
GO/NO-GOの判断材料と考えるのが現実的です。
② 全身症状は「その日の波」をみる
化学療法中は、体調の変動が非常に大きくなります。
- 倦怠感
- 悪心
- 食欲低下
- 頭がぼーっとする感じ
これらが、突然強く出現することも珍しくありません。
ここで大切なのは、
「昨日できたこと」を基準にしないこと。
昨日できた運動が、
今日は負担になることも十分にあります。
③ 主観的疲労は「いちばん信頼できる指標」
運動量調整で、最も信頼できるのは
患者さん自身の疲労感です。
- 息切れ
- だるさ
- 「もう少しで限界」という感覚
言葉にできなくても、
表情、返答の速さ、動きの質には必ずサインが出ます。
臨床では、
この主観的疲労を丁寧に拾うことが何より重要です。

◼️ 運動量は「最大能力の何%か」で考える
よくある誤解
- 筋力が落ちるから、できるだけやらせたい
- 動かさないと廃用になる
実際の考え方
- 最大能力の30〜50%程度
- 余力を残して終える
👉
翌日に疲労を持ち越さないことが、最優先です。
「今日は頑張った」よりも、
「明日も起きて動ける」ことの方が大切です。
◼️ 強度設定の目安(PT向け)
自覚的運動強度(RPE)
- RPE 11〜13(楽〜ややきつい)
- 会話ができるレベル
RPE15以上になっている場合は、
「今日はやりすぎ」のサインと考えます。
時間の考え方
- 20分通しで行わない
- 5分×数回でも十分リハビリ
例としては、
- 離床
- 立位
- 着座
この一連の動作を、
1日の中で数回に分けて行うだけでも十分です。
◼️「今日はやらない」も立派な判断
次のようなサインが見られた場合は、
中止・中断を積極的に検討します。
- 顔色が急に悪くなる
- 返答が遅くなる
- 動きが急に雑になる
- 「今日は無理」という訴え
👉
この判断ができることこそ、がんリハの専門性です。
中止=失敗ではありません。
中止=患者さんを守るための介入です。
◼️ 化学療法中に「やってよい運動・注意が必要な運動」
比較的安全な運動
- ベッド上・端座位での自動運動
- 回数を限定した立ち上がり練習
- 呼吸運動・姿勢調整
- ゆっくりした歩行(距離より質)

注意が必要な運動
- 反復回数が多い筋トレ
- 息こらえを伴う運動
- 競争的・達成目標型の課題

化学療法中の運動の「本当の目的」
ここが、いちばん大切なところです。
- 筋力をつけること
- 体力を上げること
これらは、目的としては優先度が高くありません。
本質は、
- 治療を最後まで受け切る体を守ること
- 次の治療日に「起きて来られる状態」を保つこと
つまり、
👉 回復のための運動ではなく、
消耗を最小限にするための運動
だと考えています。
◼️ おわりに(臨床の実感として)
化学療法中のリハビリは、
成果が数字で見えにくく、迷いが生じやすい分野です。
それでも、
- 「今日はここまでで十分ですね」
- 「無理しなかったのが一番です」
この言葉が、
患者さんにとって次の日を迎える安心になることがあります。
運動量を抑える判断ができること。
それこそが、
がんリハに関わるセラピストの成熟なのだと、臨床で感じています。
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