【理学療法士が考える】リハビリにマッサージは必要?その役割と限界について

【理学療法士が考える】リハビリにマッサージは必要?その役割と限界について

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【理学療法士が考える】リハビリにマッサージは必要?その役割と限界について

「先生、揉んでくれませんか?」

「前の病院ではマッサージをしてくれましたよ。」

外来や入院患者からこういったご要望をいただくことは珍しくありません。

痛みやこり、だるさがあると、誰しも“ほぐしてほしい”という気持ちになりますよね。

そして、マッサージを受けることで気持ちが楽になるのも事実です。

入院しているとたださえ、身体を動かすことには消極的になるものです。マッサージなどを好む患者の気持ちもわかります。

一方で、「マッサージばかりしていては本質的なリハビリにならない」という意見もあります。

実際に、理学療法士・作業療法士の中でもこのテーマはしばしば議論になります。

実際の養成校のカリキュラムの中でもマッサージを教える時間はほとんどありません。

カリキュラムには「運動療法学」「治療技術論」「物理療法学」などの科目があり、その中で軽擦法・揉捏法・振戦法などの基本手技が紹介される程度です。

僕の出身校でもそんな授業が1コマあったくらいでした。だから僕が実際に臨床現場に出た時に、先輩たちがマッサージをしているのを見て、驚いたものです。

今回は、リハビリの中でマッサージをどう考えるべきか、そのメリット・デメリット、そして現場での実践的な向き合い方について、僕の考えをご紹介します。

■ マッサージのメリット:使い方によってはリハビリの味方

1. 痛み・こわばりをやわらげる

 筋肉が緊張して硬くなっていると、動作がぎこちなくなり、トレーニングも難しくなります。

そんなときに軽く筋肉を緩めることで、運動前の準備として効果的な場面もあります。

 例えば、肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)では、肩甲骨周囲や僧帽筋、いわゆるアウターの緊張の亢進が、問題となることが多くリラクゼーションが、効果的です。

また、軽いマッサージが運動療法への導入として役立ちます。

 

2.リハビリ導入時にリラックス効果と信頼関係の構築

誰でも知らない人にいきなり身体を触れるのは緊張するものです.

話をしながら、ゆっくりと身体に触れることで安心感を与えられます.

 また直接的な触れ合いにより、心理的な癒し効果が得られることもあります.

リハビリに前向きになってもらうきっかけになることがあります。

 

■ マッサージのデメリット:受け身の治療になりがち

一方、実際にデメリットの方が大きいのも事実です.だからこれほど問題にもなります。

1. 「やってもらうリハビリ」に偏る危険

 マッサージは受け身の治療です。

過度に依存すると、患者さん自身の「治そう」という能動的な意欲が低下してしまうこともあります。

 実際、腰痛の患者さんの中には、マッサージ後は一時的に楽になっても、筋力不足や姿勢の問題が改善されず、何度も同じ痛みを繰り返すことがあります。

 

2. マッサージに時間を取られてしまって、限られた時間で優先すべきことができない

 リハビリの時間は1回20〜40分ほどが一般的です。

そこに10分以上マッサージを行うと、本来必要な筋トレや動作訓練の時間が削られることになります。

 例えば、変形性膝関節症の患者では、拘縮改善のためのマッサージや関節可動域訓練も大切ですが、筋力訓練に重点が置かれるべきです.

大腿四頭筋などの筋力訓練が最も重要なのに、マッサージ中心では根本的な治療が進まず、改善ができない可能性があります。

 

 

では、どうしたら良いのか?

リハビリの訓練の中でマッサージを有効に活用するためには、「目的性・計画性・連携性」を持たせることが不可欠です。

単なる慰安的な手技ではなく、治療効果を引き出す戦略的な手段として活用するために、以下のような点に取り組むことが大切です。

1.治療目的を明確にする

マッサを“なぜ行うのか”という理由を明確にすることで、対象・方法・時間配分を正しく判断できます。

具体的な目的例をあげてみると、

疼痛の軽減: 慢性痛・筋膜性疼痛・神経障害性疼痛の軽減に。

筋緊張の抑制: 痙縮や筋スパズムを緩和し、関節運動を導入しやすくする。

循環の促進: 浮腫軽減や冷えの改善、可動域向上の補助。

リラクセーションと心理的安心感:不安の強い患者や高齢者に対する配慮として。

運動療法前のウォーミングアップ: 筋の可動性や伸張性を高め、運動効率を上げる。

これらの目標を明確にし、それを患者と共有するとこで、効果的なリハビリが行えます.

 

⒉ 運動療法や動作訓練とセットにする

マッサージは単独では治療になりにくいため、その後に運動療法・動作指導・セルフトレーニングを必ず組み合わせましょう。

実践例を挙げると、

• マッサージで肩のこわばりを緩めた後に → 肩の自動運動訓練や筋力トレーニング

• 腰部の筋緊張を軽減した後に → 体幹安定化エクササイズや立ち上がり訓練

• 脳卒中後の手の緊張を和らげた後に → ハンドリング+随意運動促通訓練 などです.

 

ポイントそしては「マッサージを受けたから動けるようになった」と感じてもらえるように、前後の変化を患者自身が体感できる流れを作ることが重要です。

 

3. 患者教育と説明をセットにする

これは1で述べたことにもつながりますが、マッサージを効果的に使うには、患者が「気持ちいいからやってほしい」と思うだけではなく、なぜ行うのか・何のためになるのかを理解してもらうことが大切です。

例えば、

• 「このマッサージはこの後の〇〇の運動をやりやすくするためですよ」

• 「今日の筋肉の状態を整えることで、〇〇がしやすくなります」

• 「これで終わりではなく、ここからが大事ですよ」

などを伝えることで、患者のモチベーションが爆上がりです.

 

4. 時間管理とバランスを意識する

マッサージをしがら話をしていると、あっという間に時間が経過してしまいます。

リハビリの中でマッサージに時間をかけすぎないよう注意します。

一般的な例をあげてみます。

• ウォーミングアップとしてのマッサージ:3〜5分程度

• 疼痛軽減や緊張緩和が目的でも:10分以内に抑えるのが一般的

• 残りの時間は運動療法・動作訓練に重点を置くことが原則です

 

5. 手技の精度と適応を高める

• 解剖学・運動学に基づき、狙う筋や筋膜、皮膚・血管系を正確に判断する

• 手技にこだわりすぎず、軽擦法(さする)、揉捏法(もむ)、圧迫法、筋膜リリース、リズム運動など、目的に応じて最適な方法を選ぶ

• 強すぎる刺激や長時間の施術は、痛みや筋過緊張を誘発することもあるので注意

■ 実際のリハビリ現場ではどうするべき?

僕のスタンスは、「限定的・戦略的に使う」ことです。

繰り返しなりますが、具体的には次のように対応しています。

• ウォーミングアップとしての活用

 → 5分程度、硬くなった筋肉(例えば肩甲骨周囲や腰部)に対して軽く手技を行い、その後の運動をスムーズにします。

• 急性期や痛みの強い時期は慎重に活用

 → 痛みが強すぎて動けない時期は、マッサージや軽擦(皮膚表面を軽くさする手技)で患者さんの不安を和らげることも大切です。

• 患者さんとの対話を大切に

 → 「今日は5分マッサージしますが、その後はトレーニングもやりましょうね」など、説明を加えながら治療のバランスを取っています。

• 教育も忘れずに

 → 「マッサージは一時的な楽さを得るための手段で、根本的には自分で体を動かして良くしていくものです」と、セルフケアや自主トレの意義もお伝えします。

 

■ まとめ:マッサージは“スパイス”。主役は運動療法

マッサージには確かに一定の効果があります。

ただし、それはリハビリの補助的な手段にすぎません。

主役はあくまで運動療法と日常動作の改善です。

「気持ちいい」だけで終わらせず、その後にどうつなげていくかが、セラピストの腕の見せどころだと思います。

 

ありがとうございました。

 

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