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僕が前の病院で働いていた時の話。
僕が働いていた病院には、ALS、脊髄小脳変性症など多くの神経難病の方々が入院していました。
その中に筋ジストロフィーの子供たちもたくさんいました。
筋ジストロフィーという病気は、徐々に筋力が衰えていって、
呼吸筋も低下して、最終的に人工呼吸器を使用しなければならなくなる病気です。
筋ジストロフィーの中でも最も患者数が多いデュシャンヌ型筋ジストロフィーは、発症が早く、小学生低学年頃に発症します。
その後、徐々に歩けなくなり、車椅子を使用、
更に電動車椅子となり、自力で行えることが少なくなります。
最終的に全ての動作に介助が必要となります。
以前にも書きましたが、昨日できていたことが今日はできなくなったりと、
喪失体験を繰り返すことになります。
入院している子供たちにとっては、これはかなり恐怖を感じることです。
周りを見れば、自分と同じ疾患の先輩・友達がいます。
否が応でも自分の将来の姿を見てしまうことになります。
「近い将来、自分も動けなくなる・・」
筋ジストロフィーの子供たちが内気な人が多かったり、
反面妙に大人っぽくなる理由も分かるような気がします。
そうならざる環境があるのだと思います。
ある特別支援学校(養護学校)の学園祭にて
ある日、病院に併設されていた、養護学校の学園祭に招待されたことがありました。
養護学校といっても学園祭はどこもそれ程変わりません。
教室の壁には子供たちが作ったり描いたりした作品がたくさん貼り出してあります。
その中に、非常に興味深い展示がありました。
「自分史」のコーナーです。
最近の学校でそんなことをさせるのかはわかりませんが、
その養護学校では、子供たちに自分史を書かせていました。
抜粋すると、こんな感じです。
○年○月よく転ぶようになった。
○年○月普通の学校から、養護学校(特別支援学校)に転校した。
○年○月歩けなくなり、車椅子になった。
◯年◯月 絵画で賞を貰った。
○年○月電動車椅子を買ってもらった。電動車椅子サッカーを始めた。
◯年◯月、呼吸器をつけるようになった。
成長とともにできるようになったこともあれば、
できなくなったことも書かれていました。
僕は子供たちが自分自身を振り返り自分史を書くことに、衝撃を受けました。
もちろん自分史を書くことは一概に悪いことだとは思いませんが、
それにはかなりの苦痛を伴います。
ただ振り返って書かせればいいものではなく、
教員や家族のフォローが必要になります。
病状が日に日に進行していく中、
どこかのタイミングで障害と向き合うことが子供たちに必要になります。
自分史を書くことで、過去を振り返ることはそうしたことの助けにはなるでしょうが、
指導する側にそれを受け止める度量があるのか。
自分自身を振り返り、障害を受け入れることが子供たちにできるのか…、
ちょっと心配になったりもしました。
では、子供たちの受け入れはどうだったのか?
実際はどうなのか。
筋ジストロフィーの子供たちを持つお母さんに話を聞いたところ、
案外受け入れているのではないかとの話でした。
こちらが思うよりあっけらかんとしているところもあるようでした。
というのも、事故のように当然生活が一変するわけではなく、
筋ジストロフィーという病気は徐々に進行するため、
受け入れる時間がそれなりにあるからです。
養護学校に転向し、同じような仲間と過ごすうちに
これが彼らの普通になっていることもあるようですね。
もちろん歳を重ねるにつれて、思春期になり、
同年代の健常の子がすることが出来なくて悩むことは多くなるでしょう。
ですが、そうしたことを乗り越える先輩の存在がポツリポツリと現れて来て、
希望の光となっています。
当時から目立っていたH君
僕が以前働いていた施設から退院し、自分で一人暮らしをしたH君がいます。
彼は電動車椅子を操作し、行きたいところに行き、やりたいこと(バンド)を実現し、
何と彼女も作ってしまいました。
恋愛の行為もヘルパーの力を借りてやり切ってしまっているのです。
すごいですよね。
彼が高校生の頃は、こんなに有言実行の人になるとは思っていませんでした。
中二病的な、やや突拍子もないことを言っていたので、
社会に出て、現実に直面した時ののショックが大きいだろうなあと、要らぬ親(兄)心を持っていましたが、
それこそ要らぬ心配でした。
その時僕は彼を勇気づけるどころか、
逆に世間の冷たさや乗り越えるには大きすぎる現実のことを語っていたように思います。
大反省ですね。
まとめ
こんな先輩が近くにいると、彼らの可能性はグンと広がっていくことでしょう。
先駆者がいると、その次に飛び立つ人のハードルはかなり低くなります。
情報は蓄積していきますから。
少なくとも、やる前から諦めるということは少なくなるのではないでしょうか。
彼らの夢が少しでも実現できるように、応援をしたいと思っています。
ありがとうございました。
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