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探したのに見つからない
──それは「記憶がない」のではなく、「注意がつながっていない」だけかもしれない
◼️「入れたはずなのに、無い」という不思議な体験
カバンに入れたはずの物が見つからない。
何度も探したのに、無い。
けれど後になって、ふとした瞬間にカバンの中から出てくる。
まるで手品のようなこの現象を経験したことがある人は、決して少なくありません。
脳に障害をもつ人だけでなく、忙しい日常を送る誰にでも起こり得ます。
ただ、脳に障害をもったあと、この出来事は頻度と深刻さを増します。
そして多くの人が、こう感じます。
「自分の記憶力が悪くなったのではないか」
「注意力が落ちたのではないか」
実は、この現象の正体はもう少し別のところにあります。

◼️ 問題は「記憶」ではなく「注意の流れ」
物をカバンに入れる、という何気ない行為。
脳の中では、次のような処理が行われています。
- 注意を向ける
- 行為を認識する
- 記憶に目印(タグ)を付ける
- 後で検索する
この一連の流れのうち、
**特に弱くなりやすいのが「注意」と「タグ付け」**です。
◼️ なぜ「入れたのに覚えていない」のか
物を入れた瞬間、
- 別のことを考えていた
- 次の行動を急いでいた
- 周囲の刺激が多かった
こうした状態では、脳はその行為を
「重要な出来事」として扱いません。
すると、
- 行為自体は行われている
- しかし記憶に残る“手応え”がない
という状態になります。
つまり、
物はそこにあるのに、
「そこにある」という感覚だけが無い、というズレが生まれるのです。
◼️「何度も探したのに見つからない」理由
さらに厄介なのは、探しているのに見えないという現象です。
これは視力の問題ではありません。
脳の中で、記憶を検索するための「目印」が弱いために起こります。
焦りや不安が強くなると、
- 「無いはずだ」という思い込み
- 注意の視野が極端に狭くなる
結果として、
見ているのに認識できない状態になります。

◼️ なぜ「後になって突然見つかる」のか
時間が経ち、
- 気持ちが落ち着いたとき
- 探すのを一度やめたとき
- 別の目的でカバンを開いたとき
その瞬間に、注意の向き方が変わります。
すると、脳の検索システムが正常に働き、
「あ、あった」
と、まるで突然現れたかのように感じるのです。
これは記憶が戻ったのではありません。
最初からそこにあったものを、やっと正しく認識できただけなのです。

◼️ 発達障害や高次脳機能障害と共通する点
私が脳の障害を負ってから、発達障害についての本を読んで、実にしっくりきたという体験があります。
発達障害者の生活の工夫が、自分にも役に立つことに気がついたのです。
発達障害、脳卒中後、外傷後など、診断名は違っても共通しているのは、
注意・実行機能・作業記憶のネットワークの弱さ
です。
そのため、生活場面で起こる困りごとは驚くほど似ています。
「同じ脳の障害では、同じようなことが起こる」
──これは、とても本質的な理解だと思います。
◼️ これは「性格」や「怠け」ではない
ここは強調したいところです。
- 探し方が悪いわけではない
- 集中力が足りない性格でもない
- 努力不足でもない
脳の情報処理の仕方が変わった結果、起きている現象です。
医療・福祉の現場でよく言われる
「できない理由がある」
その典型例とも言えます。
◼️ 専門家の方へ:この視点がもたらすもの
この理解を持つことで、
- 不必要な叱責が減る
- 環境調整という発想が自然に出てくる
- 当事者の自己否定を防げる
という大きなメリットがあります。
評価や訓練以前に、
「どうして起きているのか」を共有すること
それ自体が、支援になります。
◼️ おわりに
「探したのに見つからない」という体験は、
とてもささやかで、でも確実に心を削ります。
だからこそ、
「それはあなたのせいではない」
この一言が、
当事者にも、支援者にも、大きな支えになるはずです。
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