〈スポンサーリンク〉
重症心身障害児が「手や指を噛んでしまう」理由と、現場でできる対策について
重症心身障害児のケアに関わっていると、手を噛んでしまうという行動に出会うことがあります。
わずかに皮膚が傷ついてしまうほど強く噛むこともあり、そばで見ている家族や支援者にとってはとても心配な行動です。
「癖なのかな?」
「痛みを訴えているのかな?」
「止めさせた方がいいのかな?」
そう感じる方も多いのですが、実はこの行動には いくつかの理由が複雑に絡み合っていることがほとんど です。
この記事では、実際の臨床でよく見られる理由と、今日から取り組める対策をまとめました。

◼️ 手を噛んでしまうのは“意味のある行動”
まず知っておきたいのは、
「噛む」という行動は、本人なりの理由があって出ているということです。
よく見られる理由には次のようなものがあります。
● 安心感を得るため(自己刺激行動)
口の周りの刺激は、安心感や「落ち着く感覚」と結びついていることが多く、
その結果として手を噛むことがあります。
● ほかの不快感を紛らわせるため
胃の不快感、筋緊張、歯の違和感など、
言葉では伝えにくい不快を“噛む”ことで紛らわせている場合があります。
● 嚙むことで全身が連動してしまう
嚙む動作は、首や体幹の筋緊張を高めやすい共同運動があります。
その結果、噛む → 身体が緊張 → さらに噛む、という循環に入りやすくなります。
● 手が口に入りやすい姿勢
頸部前屈、肩の内旋拘縮、肘の屈曲位などによって、
手が自然と口元に集まりやすくなることもあります。
◼️ では、どんな対策ができるのでしょう?
① まずは安全第一 ― ミトンや保護具の使用
皮膚の損傷がある場合は、まず手の保護が必要です。
- 噛んでも皮膚に届かない厚み
- ムレにくい素材
- 長時間使用でも皮膚トラブルを起こしにくい
ただし、ミトン“だけ”では原因解決には至りません。
以下の取り組みとセットで使うことが大切です。

② 姿勢の見直し(理学療法士が特に重要視するポイント)
手が口に行きやすい姿勢があると、噛む行動が増えます。
- 頭が前に落ちている
- 肩が内側に巻いている
- 座位が不安定で手でバランスを取ろうとしている
こうした姿勢を、クッションやサポート具を使って調整することで、
手が口へ向かう機会を減らすことができます。
姿勢調整によって噛む頻度が目に見えて減るケースは、とても多いです。
③ 噛んでも安全な“代替刺激”を作る
手を噛む行動の背景に「口の刺激を求める」がある場合は、
“手よりも安全なもの”を口に入れられる環境を整えることが有効です。
- シリコンのチューブや玩具
- 歯固めのような柔らかい器具
- 咀嚼用の医療的アイテム
ただし、本人が選びやすく、好みの感覚刺激であることが大切です。
④ 歯科によるチェック
歯の痛み、歯列の問題、口腔内の違和感などが原因のこともあります。
歯科医による定期チェックは必須です。
⑤ 筋緊張が高まるタイミングを避ける
噛んでいるときに全身の緊張が高くなっている場合、
- 入浴後の緊張が少ない時間にケアを行う
- 首や胸郭の動きを軽く改善しておく
- 呼吸が乱れやすい場面を避ける
- 十分な支持を与えて不安定な姿勢を減らす
など、緊張の“波”に合わせた介入がとても効果的です。
⑥ 行動分析を取り入れる
噛む行動の前後を丁寧に観察することで、
「いつ・どんなときに増えるか」が見えてきます。
A(きっかけ)
B(噛む行動)
C(その結果どうなるか)
この整理ができると、
「この時間帯は代替刺激を使おう」
「この姿勢は避けよう」
といった介入がしやすくなります。
組み合わせて取り組むことで、確実に変化が出ます
私たちが臨床でよく行うのは、次のような組み合わせです。
- ミトンで安全確保
- 姿勢を整えて手が口に行きにくい環境を作る
- 安全に噛めるものを提供する
- 緊張が強まりやすい場面を避ける
- 歯科・医療のフォローを行う
一つだけではなかなか変化が見えにくい行動でも、
複合的なアプローチを続けることで、
噛む頻度が少しずつ減ったり、皮膚トラブルが改善したりといった変化が期待できます。
◼️ おわりに
手を噛んでしまう行動は、周囲にとっても心配なものですが、
本人にとっては“身体の声”であり、意味のある行動です。
大切なのは、
「噛んでいること」そのものよりも、
“なぜ噛まざるを得ないのか”を一緒に探していくこと。
安全を守りながら、一つずつ背景を探り、原因に合わせた介入をしていくことで、
子ども自身がより安心して過ごせる時間を増やすことができます。
〈スポンサーリンク〉