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患者さんのトイレ介助から学ぶ「二段階排便」のしくみ
排泄介助の場面で、こんな経験はありませんか?
「排便を終えて立ち上がったと思ったら、また『出そう』と言われて再び便座に座る。」
実はこのような**二段階排便(二度排便)**は、臨床でもよく見られる現象です。
今回は、私が関わった患者Aさんのケースをもとに、その背景を考えてみたいと思います。
■ エピソード:患者Aさんの場合
Aさんは70代の男性。
介助でトイレに座り、いきみながら排便されました。
便が出たのを確認し、立ち上がってズボンを上げようとしたその瞬間、
「もう一度出そう…」と再び座位に戻られました。
そして実際に、再度排便がありました。
またある時は、排便を終えて歩いてベッドに戻ったと思ったら、「また出そう」と再びトイレに戻ることになりました。
こういったことは偶然ではなく、生理的にもよくある現象です。
■ なぜ起こる? 二段階排便のメカニズム
① 残便感と「上から降りてくる便」
排便によって直腸が一度空になりますが、
その刺激でS状結腸に残っていた便が下に押し出されてくることがあります。
これが“第二波”の便意です。
最初の排便で出し切ったつもりでも、実際にはまだ残っていたということです。
② 立ち上がり動作による腹圧変化
排便後に立ち上がると、体幹の動きで一時的に腹圧が変化します。
その刺激で、直腸内に残っていた便が動き、再び便意を感じることがあります。
まるで「動いたことで中のものが下りてくる」ような感覚です。
③ 高齢者・神経疾患での直腸感覚の鈍化
高齢の方や脳血管障害のある方では、
直腸の感覚がやや鈍くなり、便が残っていても「もう終わった」と感じやすくなります。
しかし体位を変えることで再び刺激が入り、遅れて便意が出るケースもあります。
④ 括約筋の協調不全
パーキンソン病などの神経疾患では、
外肛門括約筋と内肛門括約筋の協調が乱れ、
排便が断続的になることがあります。
この場合も二段階に分かれて排便が起こりやすいです。
■ 現場での対応ポイント
実際の現場では次のことに注意しましょう。
- 一度出たあとも、すぐに立たせず1〜2分ほど様子を見る
- 本人が「もういい」と言っても、腹部の動きや表情を観察
- 長時間の座位は疲れや冷えにつながるため、フットレストや姿勢調整で快適に
- 継続的に同じ現象が起こる場合は、**排便コントロール(下剤・座位時間)**を検討
■ まとめ
Aさんのように、排便後すぐに再便意が起こるのは異常ではありません。
直腸の動きや腹圧、神経反射が関係した自然な生理現象です。
介助者としては、
「もう一回出そう」というサインを焦らず受け止め、
安心して排泄が終えられるように環境を整えることが大切です。
◼️ おわりに
排泄介助は一見単純なようで、とても繊細なケアです。
一人ひとりの身体の反応を観察し、
「この人はどういうリズムで出るのか」を知ることが、
その人らしい排泄支援につながります。
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