〈スポンサーリンク〉
リハビリテーションは“心と人生に寄り添う”医療です
◆ なぜ「全人的治療」と呼ばれるのか?
一例をあげてみます。
ある日、55歳の男性が脳卒中で倒れました。幸い命に別状はありませんでしたが、右半身に麻痺が残りました。
状態が落ち着いてから、頭に浮かんだのはこうです。
「もう少し住宅ローンがあるから仕事はやめられない。でもそもそも果たして仕事ができるのか。ローンを返し終わったら、退職してこれから悠々自適に過ごすつもりだったけど、こんな身体ではどこにも行けない。これから、自分はどうやって生きていけばいいんだろう。さあ、困った。」
人生最大の危機です。
こんなことは特別なことではありません。誰にでも起こりうることです。
ここから始まるのが、「リハビリテーション」という治療です。
でもこれは、ただの“筋トレ”や“歩行練習”ではありません。
実はリハビリには、「全人的治療」という、ちょっと特別な役割があるのです。
◆「全人的」ってどういう意味?
「全人的(ぜんじんてき)」という言葉、ちょっと堅苦しいですよね。
簡単に言えば、“その人の体だけじゃなく、心や暮らし、価値観まるごとを見る”という意味です。
病気やけがは、身体だけでなく、心も生活も大きく揺るがします。
- 仕事を続けられるのか?
- 家族に迷惑をかけるのでは?
- 自分らしく生きるってどういうこと?
こうした「人生まるごと」の問題に寄り添い、支えるのがリハビリの本質。
だからこそ、ただの「治療」とは違い、「全人的な医療」と呼ばれているのです。
さっきの例で説明すると、まずは食事ができて、トイレに行けるような基本的な生活動作ができるようにという短期目標を立てます。
それだけでは、その人の人生を支えることにはなりません。
日常生活動作の自立にとどまらず、仕事に復帰するには何が必要になるを考え、援助をします。
通勤はできるのか、同じ仕事ができるのか、できるようにするための手段はないのか、などなど。
やることは山積みです。
◆ 多職種で支える“チーム戦”
リハビリは、医師一人で完結する治療ではありません。実にさまざまな専門職が一つのチームとなって、一人の患者さんを支えます。
- 理学療法士:歩く・立つ・動くを支援
- 作業療法士:着替えや料理など日常動作を支援
- 言語聴覚士:話す・食べる・飲み込むを支援
- 看護師:日々のケアを行いながら心の変化にも気づく
- ソーシャルワーカー:福祉制度や退院後の生活支援
それぞれの専門性を持ちながら、「この人が、自分らしく人生を取り戻すにはどうしたらいいか?」という共通の目的のもとで動きます。
◆「何ができるか」より、「どう生きたいか」
たとえば、麻痺が重度で「もう片手は元に戻らないかもしれません」と言われたとしても、それで人生が終わるわけではありません。
大事なのは、「これからどう生きていきたいか?」という問いです。
- 家で孫と遊べるようになりたい
- 自分にできる仕事をやりたい
- もう一度カメラを持って外に出たい
- 海外旅行に行くのが夢だった
リハビリは、そうした一人ひとりの“人生の希望”に寄り添い、具体的な道筋を一緒に考えていきます。
つまり、病気や障害を“治す”のではなく、“その人の人生を取り戻す”治療なのです。
◆だから、リハビリは「生き方の再設計」
リハビリの語源「rehabilitare」は、ラテン語で「再びふさわしい状態にする」という意味です。
それは「元通りになる」ことではありません。今ある状況の中で、その人らしい生き方を再構築することです。
だからこそ、リハビリは単なる治療ではなく、「人生の再設計」と言えるかもしれません。
◆ まとめ:全人的治療とは、“人間まるごと”に向き合うこと
リハビリは、筋肉を鍛えるだけの訓練ではありません。
身体、心、生活、人生。そのすべてに向き合う、まさに“人間まるごとの医療”。
だから私たちは、今日もまたひとりの人生にそっと寄り添います。
「この人が、この先も“その人らしく”生きていけるように」
なんだか説教じみた話になってしまいました。
こんなきれいごとをを言っても、実際にそんなにうまく行くケースばかりではありません。
時には思考を180度転換する必要もあります。
様々な選択肢を提示して、できる限りその人の希望に合うものを見つけ出します。
なかなか難しいことですけどね。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
〈スポンサーリンク〉