気管切開をすると口から食べられなくなる???(気管喉頭分離術について)

気管切開をすると口から食べられなくなる???(気管喉頭分離術について)

〈スポンサーリンク〉



 

気管切開をすると食べられない?喉頭気管分離術との違いをイラストで解説

「気管切開をすると、もう口から食べられないのでしょうか?」

患者さんやご家族から、このような疑問を聞くことがあります。

首に穴を開け、そこから呼吸をしている姿を見ると、

「口や喉と肺がつながらなくなったのでは?」

と思うかもしれません。

しかし、気管切開をしたからといって、必ず口から食べられなくなるわけではありません。

一方で、重度の嚥下障害があり、唾液や食物の誤嚥を繰り返している患者さんでは、喉頭気管分離術などの「誤嚥防止手術」が検討されることがあります。

この二つは似ているようで、目的も身体の構造も大きく違います。

今回は、イラストを使いながら整理してみたいと思います。

まず、食べ物と空気はどこを通る?

私たちの喉には、

空気の通り道食べ物の通り道

があります。

鼻や口から吸い込んだ空気は、喉頭から気管を通ってへ向かいます。

一方、食べ物は口から咽頭を通り、食道からへ送られます。

つまり、咽頭付近では空気と食物の通り道が交差しています。

食べ物を飲み込む瞬間には、喉頭が挙上したり、声門が閉鎖したりするなど、いくつもの仕組みによって食物が気管へ入らないようにしています。

ところが、この嚥下の仕組みがうまく働かなくなると、食物や唾液などが気道へ入り込むことがあります。

これが誤嚥です。

 

気管切開とは?

気管切開とは、首の前方から気管に開口部を作り、そこから気道を確保する方法です。

例えば、

長期間の人工呼吸管理が必要な場合、上気道の閉塞がある場合、痰などの気道分泌物の管理が必要な場合などに行われます。

ここで誤解されやすいことがあります。

通常の気管切開では、喉頭と気管を切り離しているわけではありません。

首から気管へ新しい空気の入口を作っている、と考えると分かりやすいでしょう。

 

気管切開をすると口から食べられない?

必ずしもそうではありません。

気管切開をしていても、嚥下機能が保たれていて、安全性が確認できれば、経口摂取できる場合があります。

反対に、気管切開をしていなくても、重度の嚥下障害があれば経口摂取が難しいことがあります。

つまり、

「気管切開をしているかどうか」=「食べられるかどうか」ではないのです。

経口摂取が可能かどうかは、嚥下機能、意識状態、呼吸状態、咳嗽力、分泌物の量、全身状態などを総合的に評価して判断します。

必要に応じて、嚥下内視鏡検査(VE)嚥下造影検査(VF)などを用いて評価することもあります。

 

気管切開をすれば誤嚥を防げる?

ここも重要です。

気管切開をしても、誤嚥そのものを完全に防げるわけではありません。

なぜでしょうか。

通常の気管切開では、口・咽頭・喉頭から気管へ続く解剖学的なつながりが残っているからです。

嚥下障害があれば、食物や飲み物だけでなく、唾液や逆流した胃内容物などが声門を越えて気道へ入り込む可能性があります。

カフ付きの気管カニューレなら、誤嚥を防げるのでは?」

と思われるかもしれません。

しかし、カフも誤嚥を完全に防止するためのものではありません。

そのため、

「気管切開をしたから誤嚥性肺炎を防げる」

と単純に考えることはできません。

重度の誤嚥を繰り返す場合

嚥下障害が非常に重くなると、

食べ物だけでなく、

自分の唾液まで繰り返し誤嚥してしまうことがあります。

痰の吸引を何度も行わなければならない。

肺炎を繰り返す。

呼吸状態が悪くなる。

こうした状態になると、リハビリや食形態の調整だけでは十分な対応が難しい場合があります。

そのような重度の誤嚥に対して検討されることがあるのが、誤嚥防止手術です。

その一つに、喉頭気管分離術があります。

 

喉頭気管分離術とは?

名前の通り、

喉頭側と肺へ続く気管側を分離する手術です。

通常では、

口・咽頭

喉頭

気管

という気道のつながりがあります。

喉頭気管分離術では、この経路を分け、肺へ続く気管を頸部の気管孔につなぎます。

その結果、口や咽頭側と肺へ続く気道が分離されます。

ここが通常の気管切開との大きな違いです。

 

なぜ誤嚥を防げるの?

喉頭気管分離術では、

食物や唾液の通り道と、肺へ続く空気の通り道が分けられます。

そのため、口や咽頭側から流れ込んだ唾液や食物が、肺へ直接入り込む経路を遮断できます。

重度の嚥下障害があり、誤嚥性肺炎を繰り返している患者さんにとって、これは非常に大きな意味を持つことがあります。

吸引回数や呼吸器感染の減少につながる場合もあります。

ただし、

手術をすれば必ず肺炎が起こらなくなるという意味ではありません。

肺炎には誤嚥以外の原因もありますし、患者さんの基礎疾患や呼吸機能なども関係するからです。

 

手術をすれば口から食べられるようになる?

ここも慎重に考える必要があります。

喉頭気管分離術によって誤嚥物が肺へ入る経路を遮断できれば、患者さんによっては経口摂取を検討できる可能性があります。

しかし、

「喉頭気管分離術=食べられるようになる手術」ではありません。

食べ物を口から取り込み、咽頭から食道へ送り込む嚥下機能そのものが回復するわけではないからです。

したがって、手術後も嚥下機能や全身状態を評価しながら、経口摂取が可能かどうかを判断します。

 

そして、とても大切な「声」の問題

誤嚥防止手術を考えるとき、忘れてはいけないことがあります。

それが発声です。

私たちは通常、肺から出た空気を声帯に通すことで声を出しています。

ところが喉頭気管分離術では、肺からの呼気が通常のように声帯へ流れなくなります。

そのため、通常の方法で声を出すことが難しくなります。

これは非常に大きな変化です。

もちろん患者さんの状態や術式によって、術後のコミュニケーション方法を検討することはできます。

しかし、

「誤嚥を防げるから手術をすればよい」

という単純な問題ではありません。

呼吸。

食べること。

声。

コミュニケーション。

そして患者さん本人やご家族が何を大切にしているのか。

それらを一緒に考える必要があります。

「食べる」ということをどう考えるか

リハビリに携わっていると、

「少しでも口から食べさせてあげたい」

というご家族の思いを聞くことがあります。

食べることは、単なる栄養摂取ではありません。

味を感じる。

好きなものを楽しむ。

家族と同じ食卓を囲む。

季節の料理を味わう。

そこには、その人の生活そのものがあります。

だからこそ、私たちは、

「食べられるか、食べられないか」だけで判断しないことが大切なのだと思います。

安全性を考えることはもちろん重要です。

一方で、

その人は何を望んでいるのか。

家族は何を大切にしているのか。

食べることが、その人にとってどんな意味を持っているのか。

そこまで含めて考えていく必要があります。

 

まとめ|気管切開と喉頭気管分離術は同じではない

気管切開は、首から気管へ新しい空気の入口を作る方法です。通常、喉頭と気管のつながりは残っています。

そのため、気管切開をしていても経口摂取できる人はいますし、反対に誤嚥が起こることもあります。

一方、喉頭気管分離術は、口・咽頭側と肺へ続く気道を分離する誤嚥防止手術の一つです。

重度の誤嚥を防ぐ大きなメリットが期待できる一方、通常の発声が難しくなるなど、大きな変化も伴います。

だからこそ、

「肺炎を防ぐ」

「食べる」

「声を出す」

「その人らしく生活する」

これらを別々に考えるのではなく、その人にとって何が大切なのかを、患者さん・ご家族・医療スタッフで一緒に考えることが重要です。

 

ありがとうございました。

 

ポチっとお願いします↓

〈スポンサーリンク〉