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リハビリの場面では、患者さんと雑談をしながら訓練することが多いのですが、
この間は食べ物の話で盛り上がりました。
その患者さんは70代の男性の方なんですが、
若い頃に食べたスパゲティの味が忘れられなくて、
何年も経ってからその店まで出向いたというのです。
しかし、その場所に目的の店はもうありませんでした。
隣の店主からその店が移転したことを聞き出すと、
今度はその移転先まで足を伸ばしたというのです。
そしてとうとう思い出の詰まったメニュー「ナポリタン」を食べたとのことでした。
その店の名前は僕も知っていました。
昔は駅前にあったのだけれど、
事情で郊外に移転したという情報は、風の便りに聞いたことがありました。
すごい執着だなあと感心しながら聞いていたところ、
その患者さんが言うには、
思い出のスパゲティを食べられて嬉しかったけれど、
昔食べた味とは少し違うような気がするとのことでした。
何がどうと具体的には指摘できないものの、
昔食べたほどの感動がないとのこと。
ケチャップの味一つとっても、昔とは異なるでしょうし、
材料も同じではないでしょう。
しかも作っている人も年をとります。
レシピは同じでも微妙に違うのかもしれません。
話を続けて聴いていると、
そのスパゲティには、特別な思い入れや思い出があることがわかってきました。
学生時代に始めて彼女ができて、二人で食べたのがそのスパゲティ。
結局は別の人と結婚して、子供が出来、家族で洋食を食べに来たこと。
子どもが口の周りを真っ赤に汚しながら、それでも嬉しそうに食べたこと。
服までケチャプの赤に染まったこと。
彼にとってスパゲティの味は、単なる料理ではなく、
それらの温かな思い出を含んだ味なんだということがわかってきました。
そりゃあ、特別な味な訳ですね。
誰でも思い出の味があります。
それは時間とともに脳内で甘美なものに変化して、居座ることでしょう。
思い出の味を再現することは困難でしょうし、
何であれ、思い出の味には勝てないのだと思います。
駄文にお付き合いいただき、ありがとうこざいました。
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